「利用者さんに怒鳴られても、介護の仕事だから仕方ない」
「家族から無理な要求をされても、とりあえず謝っておこう」
こんな対応が、介護現場では当たり前になっていないでしょうか?
2026年10月1日から、すべての事業主にカスタマーハラスメント対策が義務づけられました。もちろん、介護施設も対象です。
ただ、介護施設のカスハラ対策は一般的な接客業より少し複雑です。
たとえば、認知症などの症状として暴言や暴力が現れる場合もあります。その一方で、「介護職だから」という理由で暴言や暴力、過度な要求を無限に我慢する必要もありません。
ぼく自身、介護現場で15年以上働くなかで、利用者さんから唾を吐かれたり、腕を引っかかれたり、家族から難しい要望を受けたりしてきました。
だからこそ大切だと思うのは、「対応が上手な職員に任せる」のではなく、施設として職員を守れる仕組みを作ることです。
この記事では、介護施設がカスハラ対策として何を整えればいいのか、現場目線でわかりやすく解説します。
この記事の結論
介護施設のカスハラ対策で重要なのは、職員個人の対応力を上げることだけではありません。
方針を決める → 判断基準をそろえる → 一人で対応させない → 記録する → 組織で判断する
この流れを施設全体で作ることが重要です。

【筆者紹介】
介護業界15年以上の現役介護士(施設勤務)
※現場経験と公的データ(厚労省など)をもとに執筆しています。
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介護福祉士/ケアマネ/上級心理カウンセラー
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介護施設でも2026年10月からカスハラ対策が義務化
2026年10月1日から、改正された労働施策総合推進法により、すべての事業主にカスタマーハラスメント防止措置が義務づけられました。
制度の詳細については、厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」で最新情報を確認できます。
厚生労働省の指針では、職場のカスタマーハラスメントについて、大きく次の3つの要素から判断します。
| 判断するポイント | 内容 |
|---|---|
| 誰からの言動か | 利用者、家族、取引先など事業に関係する人 |
| 言動の程度 | 業務の性質などを考えても、社会通念上許容される範囲を超えている |
| 職員への影響 | 身体的・精神的苦痛などにより就業環境が害されている |
介護施設で考えると、利用者さんや家族からの暴行や脅迫だけでなく、人格を否定する暴言、大声による威圧、執拗な要求、長時間拘束なども該当する可能性があります。
具体的な判断基準については、厚生労働省のカスタマーハラスメント防止指針も確認しておきましょう。
注意したいポイント
「苦情を言われた」「強く要望された」というだけで、すべてカスハラになるわけではありません。
施設側のサービスに問題があれば、利用者さんや家族が改善を求めるのは当然です。正当な申入れまでカスハラ扱いしないことも大切です。
「カスハラ」「正当な苦情」「認知症による言動」を分けて考える
介護施設のカスハラ対策で、ぼくが特に重要だと思うのがここです。
介護現場では、一般企業の接客業と同じ基準だけでは判断しにくいケースがあります。
| 状況 | 基本的な考え方 | 主な対応 |
|---|---|---|
| 正当な苦情・要望 | カスハラと決めつけない | 内容を確認し、必要ならサービスを改善 |
| 認知症などに起因する言動 | 安易にカスハラ扱いしない | ケアの見直し、医師・ケアマネ等と連携 |
| 社会通念を超える暴言・暴力・過度な要求 | カスハラに該当する可能性 | 職員保護、組織対応、必要なら外部機関へ相談 |
厚生労働省の介護現場におけるハラスメント対策マニュアルでは、認知症などの病気や障害の症状として現れたBPSD等について、単純にハラスメントとして扱うのではなく、医療やケアの視点から対応する必要があるとされています。
一方で、認知症が原因の暴言・暴力であっても、職員の安全を守らなくていいわけではありません。
主治医やケアマネジャーなどとも連携し、施設全体で対応していく必要があります。
ここは「利用者さんを守るか、介護士を守るか」という二択ではありません。
利用者さんの尊厳も大切。介護職の尊厳も大切です。
ぼくは、この両方を守れる仕組みを作ることが介護施設の役割だと思っています。
介護施設で必要なカスハラ対策7つ
厚生労働省が事業主に求めているカスハラ防止措置を、介護施設で実践しやすい形にすると、次の7つに整理できます。
1.施設として「職員を守る」という方針を明確にする
最初に必要なのは、施設としての方針です。
- カスハラには施設として対応する
- 職員を一人で抱え込ませない
- 相談した職員が責められることはない
このような考え方を、管理者だけではなく現場職員まで共有します。
厚生労働省も、事業主がカスハラに毅然と対応し、労働者を保護する方針を明確にしたうえで、管理監督者を含む職員へ周知することを求めています。
方針が曖昧だと、同じ利用者さんへの対応でも「Aさんは我慢する」「Bさんは注意する」「Cさんは管理者へ報告する」とバラバラになります。
誰が勤務していても基本対応が変わらない状態を作ることが大切です。
2.「どこからカスハラか」の判断基準を決める
「嫌なことを言われたら全部カスハラ」では現場が回りません。
反対に、「利用者さんだから何をされても仕方ない」でも職員を守れません。
そこで、施設内で具体的な事例を使って判断基準をそろえておきます。
- 殴る・蹴る・物を投げる
- 人格を否定する暴言を繰り返す
- 大声や威圧的な態度を続ける
- 職員を長時間拘束する
- 説明しても過度な要求を繰り返す
介護現場では、ここに認知症や疾患の影響も加えて考えます。
現場職員一人に「これはカスハラか?」を判断させない仕組みにすることがポイントです。
3.職員がすぐ相談できる窓口と報告ルートを作る
相談窓口も必要です。
ただし、「何かあったら相談してください」だけでは不十分だと思います。
- 最初に誰へ報告するのか
- 夜勤中なら誰へ連絡するのか
- 管理者不在なら誰が判断するのか
- 緊急時はどの段階で警察・救急へ連絡するのか
ここまで決めておくと、現場で迷いにくくなります。
厚生労働省の指針でも、相談窓口をあらかじめ定めて職員へ周知し、カスハラかどうか判断が難しい段階でも幅広く相談できる体制を求めています。
「このくらいで相談したら大げさかな」と思わせないことも大切です。
4.カスハラ発生時は職員を一人で対応させない
ぼくは、ここが現場ではかなり重要だと思っています。
利用者さんや家族が興奮しているとき、一人の職員が30分、1時間と対応し続けていることがあります。
厚生労働省の指針でも、可能な限り職員を一人で対応させず、必要に応じて管理者などへ交代する対応が示されています。
カスハラが起きたときの5ステップ
- 安全確保:身体の危険があれば距離を取る
- 報告:上司・管理者へすぐ知らせる
- 交代:一人で対応せず、複数人または管理者へ交代する
- 記録:発言・行動・時間・対応内容を残す
- 共有:個人判断で終わらせず、今後の対応をチームで決める
暴行、傷害、脅迫など犯罪に該当する可能性がある場合は、警察への通報も選択肢になります。



実体験|丁寧に対応すれば必ず解決するわけではない
ぼくも以前、怒りやすい利用者さんの対応で、研修で学んだユマニチュードを試したことがあります。
目線を合わせ、優しく触れながら丁寧に声をかけました。
ところが、顔を見られた直後に唾を吐かれ、「この大バカ!」と言われました。腕を引っかかれることもありました。
もちろん、このケースをそのまま「カスハラだった」と断定することはできません。認知症などの症状が関係している可能性も考える必要があります。
ただ、ぼくがこの経験から感じるのは、「介護士の接し方さえ上手なら、暴言や暴力は防げる」と考えすぎないことです。
- 声かけやケア方法を工夫する
- それでも難しければ職員を交代する。
- 医師やケアマネと相談する
- ケア方法をチームで見直す
個人技だけで解決しようとしないことが大切です。
利用者さんから暴言・暴力を受けたときの具体的な対応については、介護現場で利用者さんから暴言・暴力を受けたときの対処法も参考にしてください。
5.事実を記録し、被害を受けた職員をフォローする
カスハラが起きたら、「大変だったね」で終わらせません。
日時、場所、相手の発言や行動、要求された内容、職員が行った対応、目撃者、ケガの有無などを、できるだけ客観的に残します。
厚生労働省も、事実関係を迅速かつ正確に確認し、必要に応じて周囲への聞き取りや録音・録画などの客観的な情報を確認することを示しています。
録音・録画を行う場合は、個人情報の取り扱いにも注意が必要です。
そして忘れてはいけないのが、被害を受けた職員へのフォローです。
- 担当を一時的に変更する
- 相手と距離を取る
- 複数人対応へ切り替える
- 管理者が状況を継続確認する
- 必要ならメンタル面をフォローする
暴言や暴力が続いて精神的につらくなっている場合は、介護職のメンタルが限界に近づいているサインと対処法も参考にしてください。
6.悪質なケースへの対応方針をあらかじめ決めておく
重大なトラブルが起きてから、
- 警察を呼んでいいのか
- 家族に警告していいのか
- 誰が相手と話すのか
- サービスの継続はどうするのか
と会議を始めても遅い場合があります。
厚生労働省は、特に悪質なカスハラについて、あらかじめ対処方針を決めておくことを求めています。
暴行や脅迫なら警察への通報、必要に応じて弁護士への相談なども選択肢になります。
【重要】
「カスハラ=すぐ契約解除」ではありません
介護サービス事業者は、正当な理由なくサービス提供を拒んではならないとされています。
ハラスメントがあったからといって、自動的に契約解除できるわけではありません。
サービスの継続が難しい場合でも、利用者さんに必要な介護が途切れないよう、ケアマネジャーや保険者などと連携して対応することが重要です。
介護現場におけるハラスメントへの考え方は、厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策」でも確認できます。
7.利用者・家族への説明と職員研修をセットで行う
施設内だけでルールを作って終わりではありません。
利用者さんや家族にも、次のような内容をあらかじめ伝えておくと、トラブル予防につながります。
- 提供できるサービスの範囲
- 対応できない要求
- 相談や苦情の正式な窓口
- 職員への暴力・暴言には組織として対応すること
ぼく自身、家族から「イベントでは一番前の真ん中にしてほしい」「お風呂は一番最初にしてほしい」といった要望を受けたことがあります。
すべてを引き受けるのではなく、できることとできないことを説明する。
通常のサービスでは難しくても、別の方法があるならその選択肢を伝える。
(たとえば、保険外サービスなど)
これを曖昧にしてサービスで引き受け続けると、要望がエスカレートしてしまった経験もあります。
もちろん、要望そのものがカスハラという話ではありません。
大切なのは、職員によって回答を変えず、施設としてサービスの範囲を説明することです。
厚生労働省の介護現場におけるハラスメント対策マニュアルでも、職員間の認識統一や利用者・家族への説明、職員研修などの重要性が示されています。



介護職がカスハラを受けたときに「我慢」で終わらせてはいけない
介護の仕事をしていると、
- 「認知症だから仕方ない」
- 「お客様だから我慢しよう」
- 「介護士ならそれくらい対応できないと」
と言われることがあります。
でも、ぼくは介護職にも尊厳があると思っています。
利用者さんの尊厳を守るのは当然です。
同時に、介護する側も一人の人間です。
暴言、暴力、嫌がらせ、不当な要求を無限に受け入れることまでが「介護の仕事」ではありません。
問題を職員一人に抱え込ませず、施設内で共有し、必要に応じて医師、ケアマネジャー、行政などと連携して組織的に対応することが重要です。
利用者さんへの理解と、職員の安全。
どちらかを捨てるのではなく、両方を守る仕組みを作る。
それが、これからの介護施設に必要なカスハラ対策だと思います。
介護施設のカスハラ対策チェックリスト
最後に、自施設の状況を確認してみてください。
| チェック項目 | 確認 |
|---|---|
| カスハラに対する施設の基本方針がある | □ |
| カスハラと正当な苦情、BPSD等を分けて考える基準がある | □ |
| 職員がすぐ相談できる窓口・担当者が決まっている | □ |
| 「一人で対応させない」ルールがある | □ |
| 発生時の記録方法が決まっている | □ |
| 暴力・脅迫など重大事案の対応ルートが決まっている | □ |
| 利用者・家族への説明と職員研修を行っている | □ |
1つでも「決まっていない」があるなら、そこから整えていけばいいと思います。
いきなり立派なマニュアルを作る必要はありません。
まず決めてほしいこと
「何かあったとき、職員は誰に報告し、誰が対応を引き継ぐのか」
ここを決めるだけでも、現場はかなり動きやすくなります。
介護施設のカスハラ対策でよくある質問
利用者の家族からの暴言や無理な要求もカスハラになりますか?
カスハラに該当する可能性があります。
ただし、要望や苦情を伝えただけでカスハラになるわけではありません。
要求内容、言動の方法、繰り返しの程度、職員への影響などを総合的に確認します。
認知症の利用者から暴言・暴力を受けても我慢するしかありませんか?
我慢する必要はありません。
BPSDなどの症状であれば、悪質なカスハラとして一律に扱うのではなく、医療・ケアの視点から原因を考えます。
一方で、原因が認知症であっても職員の安全確保は必要です。
一人で抱えず、管理者へ報告し、ケア方法や人員配置を見直し、主治医やケアマネジャーなどと連携して対応します。
カスハラをする利用者との契約を解除できますか?
カスハラがあれば自動的に契約解除できるわけではありません。
介護サービス事業者には、正当な理由なくサービス提供を拒まないことが求められています。
サービス継続が難しいケースでは、管理者だけで判断せず、ケアマネジャー、保険者、地域包括支援センター、法人本部などと連携しながら対応することが重要です。
まとめ|カスハラ対策は「対応が上手な職員を作ること」ではない
2026年10月からカスハラ防止措置は事業主の義務になりました。
施設として、方針・相談窓口・初動対応・記録・職員保護・悪質事案への対応まで仕組みにする必要があります。
介護施設のカスハラ対策というと、
- クレーム対応研修をする
- 接遇を改善する
- 認知症ケアを勉強する
と考えがちです。
もちろん、それも大切です。
でも、それだけでは足りません。
ぼくが現場で一番避けたいのは、「対応が上手な〇〇さんに任せておけば大丈夫」という状態です。
その職員が休みだったらどうするのか。
その人が限界になったらどうするのか。
カスハラ対策は、一部の職員の我慢やスキルに頼るものではありません。
利用者さんを大切にする。そして、働く介護職も大切にする。
その両方を守れる施設にしていくことが、本当のカスハラ対策だと思います。
利用者さんからの暴言・暴力そのものに悩んでいる方へ
施設としての対策ではなく、「自分がその場でどう対応すればいいのか」を知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
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