「どうして介護は、いつも人が足りないんだろう?」
介護現場で働いていると、一度は感じますよね。
- 新人が入っても、なかなか人数が増えない
- 欠勤者が出れば、残っている職員で穴を埋める
- 忙しくなれば新人をゆっくり教える余裕もなくなる
ぼくも介護士として15年以上働いていますが、人手不足を「誰かが辞めたから」だけで説明するのは難しいと感じています。
実際、介護労働安定センターの令和7年度「介護労働実態調査」では、従業員が「大いに不足」「不足」「やや不足」と答えた事業所は合わせて65.8%でした。
一方で、訪問介護員と介護職員を合わせた離職率は12.4%です。
つまり現在の介護業界は、単純に「辞める人が多すぎるから人が足りない」というだけではありません。
高齢化によって必要な介護職員が増える一方で、新しく入ってくる人を十分確保できず、待遇・仕事の負担・教育・職場環境などが複雑に重なっている。
これが、人手不足がなかなか解消しない大きな理由です。
ぼく自身の現場経験も交えながら、5つの原因と現場でできる対策を整理します。
- 介護の需要が増え、必要な職員数そのものが増えている
- 人手不足は「離職」だけでなく「採用が追いつかない」問題でもある
- 給料・昇給・身体的負担なども人材確保に影響する
- 人が足りないことで既存職員の負担が増え、さらに採用・教育が難しくなる
- 人を増やすだけでなく、業務を減らす・新人を育てる仕組みも必要

【筆者紹介】
介護業界15年以上の現役介護士(施設勤務)
※現場経験と公的データ(厚労省など)をもとに執筆しています。
【所持資格】
介護福祉士/ケアマネ/上級心理カウンセラー
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介護の人手不足はどれくらい深刻なのか?
介護現場の人手不足は、特定の施設だけで起きている問題ではありません。
介護労働安定センターが2026年7月29日に公表した令和7年度「介護労働実態調査」では、従業員が不足していると回答した事業所は65.8%でした。
職種別では、訪問介護員の不足感は82.9%、介護職員は69.8%とされています。
介護職自身の回答を見ても、労働条件・仕事の負担に関する悩みで最も多かったのは「人手が足りない」の52.3%です。
さらに厚生労働省は、第9期介護保険事業計画に基づき、
- 2022年度:約215万人
- 2026年度:約240万人
- 2040年度:約272万人
の介護職員が必要になると推計しています。
2022年度から2040年度までに、約57万人を増やす必要がある計算です。
引用:厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」
人手不足を考えるときに大切なのは、
「今いる人が辞めないようにする」だけでは足りない
という点です。
介護を必要とする人が増えるのであれば、それに合わせて新しい人材も確保しなければいけません。
介護業界が人手不足になる5つの原因
原因1|高齢化で介護を必要とする人が増えている
介護業界の人手不足を考えるうえで、最初に押さえておきたいのが需要の増加です。
介護サービスを必要とする人が増えれば、そのサービスを提供する職員も必要になります。
厚生労働省が2040年度に約272万人の介護職員が必要だと推計しているのも、そのためです。
つまり、
今と同じ人数を維持できれば解決する問題ではありません。
今後は、現在より多くの介護人材が必要です。



ここが一般的な人手不足とは少し違うところだと思います。
退職者を補充するだけではなく、拡大する介護需要に合わせて「純粋に人数を増やす」必要があります。
原因2|介護職へ入ってくる人を十分に確保できない
「介護は離職率が高いから人手不足になる」
と思われがちですが、最新データを見ると、それだけでは説明できません。
令和7年度介護労働実態調査では、訪問介護員と介護職員を合わせた採用率は14.6%、離職率は12.4%でした。
離職率だけを見ると、以前より低下しています。
それでも65.8%の事業所が人手不足を感じています。
問題の一つは、
必要な人数に対して採用が十分追いついていないことです。
ぼくの職場でも求人を出しているのに、思ったように応募が来ない時期がありました。
人が足りないから求人を出す。
しかし長期間求人を出し続ける。
すると求職者側から、
「いつも募集しているけど、すぐ辞める職場なのかな?」
と見られる可能性もあります。
採用できないから忙しくなる。忙しいから採用や教育に使える時間も減る。
人手不足は、こうして悪循環になっていきます。
原因3|仕事内容に対する賃金・待遇への不満がある
給料も人材確保を考えるうえで無視できません。
令和7年度介護労働実態調査で、介護労働者の「労働条件・仕事の負担についての悩み」を見ると、
- 人手が足りない:52.3%
- 仕事内容のわりに賃金が低い:38.1%
- 昇給がない・少ない:29.9%
となっています。
人手不足だけではなく、賃金や昇給への不満も上位です。
ぼく自身、ニュースなどで日本の平均年収を見ると、自分の給与明細を思い浮かべて少しへこむことがあります。
介護福祉士の資格手当も職場によって違います。ぼくの職場では月1万8,000円ですが、資格を取っても待遇差を実感しにくい職場もあるでしょう。
もちろん、「介護の給料が低いから人手不足になる」と一つの原因だけで断定することはできません。
それでも、仕事内容や責任に対して待遇が見合わないと感じる人が一定数いることは、最新調査からも読み取れます。
ぼくは、社会に介護職を必要とするのであれば、
「介護の仕事を選びたい」と思える待遇にしていくことも必要だと考えています。
これはデータではなく、15年以上現場で働いてきたぼく自身の考えです。
原因4|少人数で働くことで身体的・精神的な負担が増える
人手不足になると、一人あたりの仕事量が増えます。
そして仕事量が増えることで、
「この仕事を続けるのはきつい」
と感じる人が出てくる。
これも人手不足を長引かせる原因です。
ぼくが新人だったころ、一人で18名の利用者さんに対応する難しさを強く感じました。
夜勤では、スタッフ2人で約50名の利用者さんに対応することもあります。
利用者さんの話をゆっくり聞きたい。
介助する前にはきちんと説明したい。
ところが、話している途中に別の利用者さんから呼ばれる。ナースコールが鳴る。転倒リスクの高い方が動き出す。
「もっと丁寧に関わりたいのに、時間がない」
という場面は何度もありました。
介護の仕事そのものが嫌なのではなく、
人数に対して仕事量が多すぎることで、仕事がつらくなるケースもあります。
介護職の悩み全体を整理したい方は「介護職によくある悩み9選」も参考にしてください。



原因5|新人を育てる余裕がなく、定着しにくくなる
人手不足の職場ほど、新人を丁寧に育てる時間を確保しにくくなります。
ここにも矛盾があります。
本当は人が足りないからこそ、新人を大切に育てたい。
しかし現場が忙しいので、
「今日はとりあえず先輩についてきて」
「見ながら覚えて」
となりやすい。
新人側は、
「何から覚えればいいの?」
「質問していいのかな?」
と不安になります。
ぼく自身、新人教育では失敗した経験があります。
以前、洗剤やおむつのメーカーなど、細かなことまで質問する新人がいました。
当時のぼくは、聞かれたことに全部答えようとしていました。
ところが振り返ると、その新人に本当に必要だったのは、細かい知識を全部覚えることではありません。
業務の流れや、利用者さんへの基本的な対応を先に身につけることでした。
「それは今は覚えなくても大丈夫」と言い、覚える内容に優先順位をつけるべきだったと反省しています。
人材育成は、
たくさん教えることではなく、今必要なことを順番に教えること
も大切です。
新人が定着しない原因を詳しく知りたい方は「介護職の新人がすぐ辞める原因と離職防止策」へ
「離職率が高いから人手不足」とは言い切れない
この記事で、特に伝えたいところです。
介護業界の人手不足について調べると、
「仕事がきつい」
↓
「みんな辞める」
↓
「だから人手不足」
という説明を見かけます。
もちろん、離職は大きな問題です。
ただ、最新の介護労働実態調査で訪問介護員と介護職員の離職率は12.4%です。
人手不足の原因を「離職率の高さ」だけに求めると、
- 介護需要そのものが増えている
- 採用する人数が足りない
- 地域・サービスによって不足感が違う
- 給与や勤務条件で他産業と人材獲得競争になる
- 新人育成や業務改善も必要
という問題を見落としてしまいます。
「辞める職員を引き止めれば解決する」
ほど単純ではありません。
人手不足が介護現場に与える影響
一人あたりの業務量が増える
人が一人減っても、利用者さんの食事、排泄、入浴、服薬、見守りが減るわけではありません。
その分、残った職員が仕事を引き受けることになります。
短期間なら応援や残業で対応できても、それが日常になると負担が積み重なります。
利用者さんとゆっくり関わる時間が減る
ぼくが人手不足を一番つらく感じるのは、ここです。
介護は、本来「作業」だけをする仕事ではありません。
利用者さんの話を聞いたり、表情の変化に気づいたり、その人に合わせて声をかけたりすることも大切です。
ところが現場に余裕がなくなると、
「安全に食事を終える」
「転倒させない」
「時間内に排泄介助を終える」
など、目の前の業務を回すことが中心になります。
職員が怠けているからではありません。
時間そのものが足りないのです。
新人教育の時間が減る
忙しくなるほど、
新人を教える
↓
自分の仕事が遅れる
↓
さらに忙しくなる
という状態になりやすくなります。
新人教育を「余裕があるときにやる仕事」にしてしまうと、人手不足から抜け出しにくくなります。
介護の人手不足を解消するために必要な5つの対策
人手不足を解消するには、採用だけでは不十分です。
「入ってくる人を増やす」
「辞めにくくする」
「少ない人数でも無理なく働ける仕組みに変える」
の3方向から考える必要があります。
1|賃金や待遇を改善する
給与だけですべてが解決するわけではありません。
しかし、仕事内容に対して「割に合わない」と感じる状態を放置したまま、人材確保を続けるのも難しいでしょう。
賃金だけでなく、
- 休日
- 有給休暇の取りやすさ
- 夜勤回数
- 資格手当
- 残業
- 希望休
- 柔軟な勤務時間
なども含めて考える必要があります。
2|辞めにくい職場環境をつくる
人材確保というと求人広告ばかりに目が向きますが、
今いる職員が続けられる環境をつくることも人材確保です。
人間関係、上司の対応、休暇、残業、相談のしやすさ。
こうした毎日の働きやすさは、求人票の給与以上に長く働くうえで大切になることがあります。
人間関係に悩んでいる場合は「介護職の人間関係がつらい原因と対処法」も参考にしてください。
3|新人教育を「現場任せ」にしない
新人教育を、「今日一緒になった先輩が教える」だけにすると、教える内容にばらつきが出やすくなります。
そこで、
- 最初に覚えること
- 1週間以内に覚えること
- 1か月後までに覚えること
- 一人で判断しなくていいこと
を整理しておく。
教える側の負担も減ります。
新人側も「どこまでできればいいのか」が分かりやすくなります。
4|ICTや介護テクノロジーを活用する
記録、見守り、連絡などは、ICTによって負担を減らせる部分があります。
ただし、「機械を入れれば楽になる」とは限りません。
ぼくの職場でもインカムを導入し、別フロアの職員や看護師へ連絡しやすくなった一方で、使ってみて初めて分かる不便さもありました。
ツールありきではなく、
どの業務に時間がかかっているのかを先に確認することが大切です。
5|「何を増やすか」だけでなく「何をやめるか」を考える
人手不足になると、
「もっと人を増やそう」
「もっと効率化しよう」
と考えがちです。
ぼくの職場では、業務改善をするときに、
「何をするか」ではなく「何をしないか」
も考えています。
たとえば、以前は利用者さんの情報を紙の日報へ手書きし、さらに介護記録へパソコン入力していました。
内容が重複していたので、紙の日報を廃止しました。
また、職員が車椅子を押していた利用者さんに、自分で移動できる場合は自走していただく。
テーブル拭きやチラシを使ったゴミ箱作りなど、できる作業を利用者さんにお願いする。
職員の仕事を減らしながら、利用者さんの自立や役割にもつなげています。
これは、
「職員が足りないから利用者さんに仕事をさせる」
という意味ではありません。
本人ができることまで職員が代わりにしていないかを見直すということです。



現場で働く介護職はどうすればいい?
業界全体の人手不足は、一人の介護職が解決できる問題ではありません。
ここは、はっきり言いたいです。
人がいない分を、残っている職員が我慢して埋め続けることを「仕方ない」で終わらせないほうがいい。
ただし、人手不足だからすぐ辞めるべきだとも思いません。
まずは、自分の職場を次の3つに分けて考えてみてください。
自分たちで改善できる問題
- 二重になっている記録
- 不要な会議
- 非効率な役割分担
- 時間帯に合っていない人員配置
- 新人教育の優先順位
このあたりは、業務改善で変えられる可能性があります。
上司や法人に相談しないと変わらない問題
- 慢性的な欠員
- 残業
- 休日出勤
- 給与
- 人員配置
- 採用
- 夜勤人数
個人だけで抱えず、記録や具体的な事実を示して相談したほうがいいでしょう。
自分では変えにくい問題
相談しても長期間改善されない。
欠員が出ても補充されない。
残業や休日出勤が常態化している。
そうした場合は、今の職場以外の働き方を調べることも選択肢です。
辞めると決める必要はありません。
別の職場では、
- 何人で夜勤をしているのか
- 年間休日は何日か
- 残業はどのくらいか
- 欠員時にどのように対応するのか
を確認するだけでも、今の職場を客観的に見られます。
転職は「辞めると決めてから始めるもの」ではありません。
今の職場に残るか迷っている段階なら、求人と今の条件を比べるだけでも十分です。
介護の人手不足に関するよくある質問
介護の人手不足の一番大きな原因は何ですか?
一つには絞れません。
介護を必要とする人が増えて必要な職員数が増えている一方、採用・待遇・仕事内容・職場環境・教育など複数の問題が重なっています。
そのため「給料が安いから」「離職率が高いから」と一つだけで説明するのは難しいです。
介護職は本当に離職率が高いのですか?
令和7年度介護労働実態調査では、訪問介護員と介護職員を合わせた離職率は12.4%でした。
人手不足の原因を離職だけで説明するのではなく、採用率や介護需要の増加も合わせて見る必要があります。
介護の人手不足は今後さらに深刻になりますか?
厚生労働省は、第9期介護保険事業計画に基づき、2026年度に約240万人、2040年度には約272万人の介護職員が必要になると推計しています。
将来の人手不足を防ぐには、採用だけでなく、定着・待遇改善・生産性向上などを同時に進める必要があります。
人手不足の職場は辞めたほうがいいですか?
人手不足という理由だけで決める必要はありません。
重要なのは、
- 補充する動きがあるか
- 業務改善をしているか
- 残業や休日出勤が常態化していないか
- 上司へ相談したとき対応してくれるか
です。
人手不足でも改善に取り組んでいる職場と、「職員の我慢」で回している職場は分けて考えたほうがいいでしょう。
まとめ|介護の人手不足を「現場の頑張り」だけで解決しない
介護業界の人手不足には、主に次の5つの原因があります。
- 高齢化で必要な介護職員数が増えている
- 新しく介護職へ入る人の確保が追いつかない
- 賃金・待遇への不満がある
- 少人数勤務によって身体的・精神的負担が増える
- 新人を育てる余裕がなく定着しにくくなる
そして、人手不足になるほど残った職員が忙しくなり、新人教育や業務改善に使える時間が減る。
この悪循環が、人手不足をさらに長引かせます。
だからこそ、
「あと一人いれば楽になるのに」で終わらせず、採用・定着・業務の3つを分けて考えることが大切です。
ぼくは介護職として15年以上働いていますが、「人が足りないから仕方ない」と、現場の職員がずっと我慢する状態は健全ではないと思っています。
改善できることは改善する。
上司に相談することは相談する。
それでも変わらないなら、別の職場を知っておく。
辞めるか、我慢するか。
その二択だけにしなくていいと思います。
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「辞める」か「我慢」の二択じゃない。
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