「これってパワハラなのかな……」
- 上司からみんなの前で怒鳴られる
- 先輩から無視される。
- 自分だけ仕事を押しつけられる
介護現場でこうしたことが続くと、
「自分が我慢すればいい」
「忙しい職場だから仕方ない」
と考えてしまうことがあります。
でも、「介護職だから仕方ない」で、理不尽な扱いまで受け入れる必要はありません。
一方で、厳しく注意されたからといって、すべてがパワハラになるわけでもありません。
大切なのは、感情だけで判断するのではなく、何が起きているのかを整理することです。
厚生労働省では、職場のパワーハラスメントを判断する3つの要素と代表的な6類型を示しています。
この記事では、介護現場で15年以上働いてきたぼくの経験も交えながら、パワハラの見分け方、記録の残し方、相談先、そして会社が動かない場合の選択肢まで順番に解説します。
- パワハラは「優越的な関係」「業務の範囲を超える」「就業環境が害される」の3要素で考える
- まずは日時・場所・言動・同席者など、起きた事実を記録する
- 社内で解決できなければ、総合労働相談コーナーなど外部にも相談できる
- 「我慢して残る・すぐ辞める」の二択ではなく、異動・休む・情報収集など中間の選択肢もある
【筆者紹介】
介護業界15年以上の現役介護士(施設勤務)
※現場経験と公的データ(厚労省など)をもとに執筆しています。
【所持資格】
介護福祉士/ケアマネ/上級心理カウンセラー
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介護職の「これってパワハラ?」を判断する3つの基準
まず、「嫌なことを言われた=パワハラ」と判断するのではなく、国が示している基準を知っておきましょう。
厚生労働省「あかるい職場応援団」では、職場のパワーハラスメントを次の3つの要素をすべて満たすものとしています。
| 判断要素 | 簡単にいうと |
|---|---|
| 優越的な関係を背景とした言動 | 立場や人間関係などから抵抗・拒絶しにくい関係 |
| 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動 | 仕事上必要な指導の範囲を超えている |
| 就業環境が害される | 働くうえで看過できないほどの支障が出ている |
ポイントは、役職だけで決まるわけではないことです。
上司から部下だけでなく、経験の長い先輩や、集団から一人に対する言動など、抵抗しにくい関係が背景にあれば対象になり得ます。
反対に、ミスを指摘することや、安全のために必要な指導など、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲の指導は、パワハラには該当しません。
「注意されたかどうか」ではなく、目的・内容・言い方・頻度・関係性などを含めて判断することが大切です。

介護現場で考えられるパワハラ6類型
厚生労働省は、代表的なパワハラの言動を6つに分類しています。
| 類型 | 介護現場で考えられる例 |
|---|---|
| 身体的な攻撃 | 殴る、蹴る、物を投げつけて威嚇する |
| 精神的な攻撃 | 人格を否定する、みんなの前で繰り返し怒鳴る、ひどい暴言を浴びせる |
| 人間関係からの切り離し | 意図的に無視する、仲間外れにする、必要な連絡から外す |
| 過大な要求 | 業務上明らかに不要な仕事や、遂行不可能な仕事を強制する |
| 過小な要求 | 合理的な理由なく仕事を与えない、能力とかけ離れた単純作業だけをさせる |
| 個の侵害 | 家庭・交際関係など私生活へ必要以上に立ち入る |
ただし、これはあくまで代表例です。
たとえば「忙しい日に自分の仕事量が多かった」という事実だけで、すぐ過大な要求と決まるわけではありません。
反対に、6類型にぴったり当てはまらなくても、状況によっては問題となる場合があります。
「パワハラと断定できないから相談してはいけない」ということでもありません。
人間関係そのものに悩んでいる場合は、介護職の人間関係がつらい原因と対処法も参考にしてください。
パワハラかもと思ったら「やり返す」より自分を守る
以前のぼくなら、「やられたらやり返す」と考えていたかもしれません。
でも、今はおすすめしません。
感情的に言い返すと、問題の焦点がずれたり、「お互い様だった」と扱われたりする可能性があります。
パワハラへの対処で大切なのは、相手を倒すことではなく、自分の安全とこれからの選択肢を守ることです。



STEP1.危険を感じたらその場から離れる
暴力や物を投げる行為など、身の危険を感じる状況なら、記録より先に安全を確保してください。
「パワハラかどうか確かめるために耐える」必要はありません。
加害者本人と二人きりになることに恐怖を感じるなら、無理に直接話し合おうとせず、別の上司や管理者、法人本部などを通す方法もあります。
STEP2.起きたことを事実として記録する
感情だけではなく、「いつ・どこで・誰から・何を言われたか」を残します。
一度だけの出来事でも、後から思い出して正確に書くのは難しいものです。
できれば、その日のうちに記録してください。
STEP3.一人で抱えず相談する
直属の上司が加害者なら、その上司へ相談する必要はありません。
施設長、別部署の管理者、人事、法人本部、コンプライアンス窓口など、加害者から離れた相談先を選びます。
事業主には、相談体制の整備や事実確認、適切な対応、再発防止など、パワーハラスメント防止のために必要な措置を講じることが求められています。
詳しくは厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」で確認できます。
STEP4.会社の対応を見て次を決める
相談したあとに大切なのは、「自分が相談した」という事実だけではなく、会社がどう対応したかを見ることです。
- 事実確認をしてくれた
- 勤務や配置を調整してくれた
- 加害者へ指導した
- 相談後も放置された
- 逆に自分が責められるようになった
ここで、今の職場に残るのか、異動を希望するのか、外部へ相談するのか、環境そのものを変えるのかを考えます。
パワハラの記録は何を残せばいい?
相談するときに役立つのが、具体的な記録です。
重要なのは、「〇〇さんは最悪な上司だった」と評価を書くことより、実際に何が起きたかを残すことです。
| 残すもの | 記録する内容 |
|---|---|
| 日時・場所 | ○月○日○時ごろ、2階スタッフルームなど |
| 具体的な言動 | できるだけ実際の言葉・行動をそのまま記録 |
| 周囲の状況 | その場にいた職員、利用者さんなど |
| 回数・継続性 | 初回なのか、何週間・何カ月続いているのか |
| メール・チャット等 | 業務上のメール、メッセージ、連絡文書など |
| 勤務記録 | 過大な業務や残業も問題ならシフト表・勤怠記録など |
| 体調への影響 | 受診している場合は受診記録や診断書など |
介護現場では、ここで一つ注意があります。
利用者さんの氏名・顔・病状・ケア記録などの個人情報を、個人のスマホへ安易に保存しないでください。
証拠を残そうとして利用者さんまで撮影してしまうと、別の問題につながる可能性があります。
録音・撮影を検討する場合も、職場の規則や個人情報、具体的な状況によって扱いが異なるため、必要に応じて労働相談窓口や法律の専門家へ確認してください。
介護職がパワハラを相談できる場所
「施設に相談しても何も変わらなかった」
そんな場合は、職場の外にも相談先があります。
職場内の相談窓口
まず候補になるのは、施設長、人事、法人本部、ハラスメント相談窓口などです。
相談するときは、「パワハラです。何とかしてください」だけではなく、記録した事実をもとに伝えると状況を整理しやすくなります。
○月○日から、○○さんからこのような言動を受けています。現在まで○回ありました。日時と内容を記録しています。事実確認と、勤務上の接触を減らす方法について相談したいです。
総合労働相談コーナー
職場で対応してもらえない、職場には相談しにくいという場合は、厚生労働省の総合労働相談コーナーがあります。
パワハラやいじめ・嫌がらせを含む幅広い労働問題について相談でき、相談は無料・予約不要です。
必要に応じて、助言・指導やあっせんなどの制度について案内を受けることもできます。
労働条件の問題もあるなら専門窓口へ
パワハラだけでなく、未払い残業代、長時間労働などの労働条件にも問題がある場合は、厚生労働省の「確かめよう労働条件」から相談窓口を確認できます。
「パワハラだから、とにかく労働基準監督署へ行けばいい」と一つに決めるより、まず総合労働相談コーナーで問題を整理し、必要な窓口につないでもらう方法もあります。
心身がつらいなら問題解決より体調を優先する
眠れない、食事が取れない、仕事へ行くことを考えるだけで強い苦痛を感じるなど、心身への影響が続いているなら、職場との話し合いだけで解決しようとしないでください。
医療機関への相談に加えて、厚生労働省の「こころの耳」相談窓口案内から相談先を探すこともできます。
ぼくも介護現場で無視・陰口・誹謗中傷を経験しました
ぼく自身、入社1年目にユニットリーダーになったとき、先輩との人間関係で悩んだ経験があります。
仕事中にスマホゲームをしていた先輩を注意したところ、翌日から無視されるようになりました。
さらに別の職員を巻き込んで陰口を言われ、連絡ノートに誹謗中傷を書かれたこともあります。
最初は傷つきましたし、かなり悩みました。
ただ、途中から「自分では変えられない相手の行動ばかり考えていても仕方がない」と思い、自分の仕事へ集中するようにしました。
そして、ぼくの気持ちを一番ラクにしたのが、ほかの求人を見ることでした。
実際に転職するかどうかは別です。
求人を見て、「ここだけが自分の職場じゃない」「本当に限界なら別の場所へ行ける」と分かっただけで、今の職場への執着が小さくなりました。
転職しなくても、逃げ道を持つだけで人間関係の悩みが小さくなることがあります。
なお、この経験をぼく自身が法律上の「パワハラだった」と断定しているわけではありません。ここで伝えたいのは、嫌がらせを受けたときに一人で相手を変えようとせず、自分の選択肢を増やしたことで気持ちが変わったという実体験です。
当時の詳しい体験は、ユニットリーダーになっていじめられた経験にまとめています。
会社が変わらないときは「残る・異動・休む・転職」の4つで考える
パワハラに悩むと、頭の中が「我慢するか、辞めるか」の二択になりがちです。
でも、実際にはその間にも選択肢があります。
| 選択肢 | 考えやすい状況 |
|---|---|
| 今の職場に残る | 会社が事実確認・指導・再発防止などに動いている |
| 異動・勤務調整 | 特定の上司や職員との関係が主な原因で、接触を減らせる |
| 休む | 心身への負担が強く、判断するための余力もなくなっている |
| 転職を検討する | 相談しても放置される、組織全体に問題がある、改善の見込みが乏しい |
相談したからといって、必ず職場を辞める必要はありません。
求人を見たからといって、必ず転職する必要もありません。
逆に、「介護職なんだからこれくらい我慢しなきゃ」と無期限に耐え続ける必要もありません。
「よくあること」と「受け入れていいこと」は別です。
今の職場に残るにしても、別の職場へ行くにしても、「自分で選べる状態」を作ることが大切です。
辞めるべきか迷っている人は、介護職を辞めたいときの限界サインと判断基準で、いったん状況を整理してみてください。
「まだ辞めるとは決めていないけれど、逃げ道だけは作りたい」という人は、働きながら転職活動をするメリットも参考になります。
介護職のパワハラに関するよくある質問【Q&A】
厳しく注意されたらパワハラですか?
厳しい注意だけで直ちにパワハラになるわけではありません。業務上必要な指導か、必要かつ相当な範囲を超えていないか、就業環境への影響などを含めて判断します。人格否定や長時間の威圧的な叱責などは、通常の指導とは分けて考える必要があります。
証拠がないと相談できませんか?
完璧な証拠がそろうまで相談を待つ必要はありません。まずは、覚えている範囲で日時・場所・言動・周囲の状況を整理してください。今後同様のことが起きた場合は、その都度記録していきます。
上司本人がパワハラをしている場合は誰に相談しますか?
その上司より上の管理者、施設長、人事、法人本部、ハラスメント相談窓口など、加害者本人を通さない相談ルートを探します。社内で相談しにくければ、総合労働相談コーナーなど外部窓口も利用できます。
パワハラを相談したら職場に居づらくなりませんか?
不安になるのは自然です。厚生労働省は、相談したことや事実確認に協力したことを理由に不利益な取扱いをしない旨を周知することも、事業主が講ずべき措置として示しています。心配なら、相談時に「相談後の勤務やプライバシーについても不安がある」と伝えておきましょう。
労働基準監督署へ行けばパワハラを解決してくれますか?
パワハラやいじめ・嫌がらせなど幅広い労働問題は、まず総合労働相談コーナーへ相談できます。労働基準法違反などが疑われる場合は、必要に応じて担当部署への案内・取次ぎが行われます。
パワハラを理由に転職してもいいですか?
人間関係や職場環境も、働き続けるうえで大切な条件です。ただし、勢いだけで辞めるのではなく、相談や異動で改善できるか、ほかにどんな職場があるかを確認したうえで判断する方法もあります。
まとめ|パワハラに耐えることを「介護職の当たり前」にしない
介護現場は忙しいです。
人手が足りず、余裕がなくなり、言い方がきつくなる職員もいるでしょう。
でも、忙しいことと、他人を傷つけていいことは別です。
「自分が弱いからつらいのかな」と考える前に、まず起きていることを事実として整理してください。



- 危険ならその場から離れる
- 日時・場所・言動を記録する
- 社内または外部へ相談する
- 会社の対応を見て、残る・異動・休む・転職から選ぶ
介護職だから我慢するのではなく、自分が安心して働ける環境を選んでいいと、ぼくは思っています。
今日すぐに大きな決断をしなくても構いません。
まずは今日起きたことを一つ記録する。そして、相談できる場所を一つ確認する。
そこからで大丈夫です。
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