【常識が変わる!?】ユマニチュードというフランスのケア技法

高齢者を介護する介護士のイメージ

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介護士

認知症の方との関わり方がむずかしい……

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どうすれば利用者さんが安心してくれるの?

そんなあなたにぜひ知ってほしいのが、フランス生まれのケア技法「ユマニチュード」です。

介護おじさん

介護士歴15年以上の筆者も、ユマニチュードを学んだことで、認知症の方とのコミュニケーションが劇的にスムーズになりました。

この記事の要約
  • ユマニチュードは、魔法ではなく「関係性を再構築するための具体的な技術」。
  • 基本は「見る・話す・触れる・立つ」の4つの柱。ケアの全ての場面に応用できる。
  • 安全と尊厳が最優先。無理強いはせず、ケアを受ける人の「快」の記憶を積み重ねることを目指します。
ユマニチュードとは

1979年、フランスの体育学専門家イヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏の2人が考案した「人間らしさ」に重点を置いたケアの技法です。

ユマニチュードって、一体何ができるの?と気になりますよね。

先に結論からお伝えします。

ユマニチュード:できること/できないこと

  • できること:
    • ケアへの拒否を減らし、穏やかな時間を作ること。
    • 利用者さんとの信頼関係をゼロから築き直す、または深めること。
    • 「何をされるかわからない」という不安を「この人は味方だ」という安心に変えること。
    • 結果的に、ケアの時間が安定し、お互いのストレスが減ること。
  • できないこと(魔法ではありません):
    • 病気や症状そのものを治すこと。
    • どんな状況でも100%成功すること(特にせん妄時など)。
    • たった1回で劇的に関係が変わること(積み重ねが重要です)。

ユマニチュードを使う前提

この技術を使うには、いくつか大切な前提があります。

  • 安全の確保: 利用者さんとスタッフ、双方の安全が何よりも優先です。転倒リスクや、利用者さんが不安になる環境は徹底的に排除します。
  • 時間の確保: 最初は、普段より少しだけ時間がかかるかもしれません。でも、長い目で見れば拒否対応の時間が減り、結果的に時短に繋がります。
  • 人員の理解: できればチームで取り組むのが理想です。一人だけ違うアプローチをすると、利用者さんが混乱してしまう可能性があるからです。

ユマニチュードについて、詳しく見ていきましょう。

【筆者紹介】
介護業界15年の現役介護士です。
※現場経験公的データ(厚労省など)をもとに執筆しています。
【所持資格】
介護福祉士/ケアマネ/上級心理カウンセラー

当サイトの「実績」と「信頼性」
ブログ村介護職PVランキング1位獲得、「おすすめブログ」として複数のメディアで紹介されました。

詳しくはトップページのプロフィールに記載

目次

ユマニチュードの基本:4つの柱

ユマニチュードには「4つの柱」と呼ばれる基本技術があります。

専門書を読むと少し難しく感じるかもしれませんが、ぼくたちの現場の言葉で言い換えると、とてもシンプルです。

1. 見る:目線合わせの距離・角度・順番

これは「あなたのことを見ていますよ、敵ではありませんよ」というメッセージです。

いきなり正面から目を合わせると、人によっては威圧的に感じます。

現場では、
①まず正面から存在を知らせる
②少し斜め前に移動
③ゆっくりしゃがんで同じ目の高さになる
というステップを踏むと、相手の緊張がスッと抜けることが多いです。

距離は50〜70cmくらいが、お互いに安心できる「対話の距離」ですね。

2. 話す:名前→自己紹介→目的→お願い

ケアは「作業」ではなく「対話」です。

ぼくはいつも、次の流れを意識しています。

①「〇〇さん」とお名前を呼ぶ
②「こんにちは、介護士の△△です」と自己紹介
③「これからお着替えをしたいと思っています」と目的を伝える
④「ご一緒にお願いできますか?」と確認する

ポイント

  • 否定語(〜しないでください)より肯定語(〜しましょうか)を使う
  • 短い文章で、穏やかに、ゆっくり話す

3. 触れる:手首→手のひら→前腕の“安心の順番”

いきなり肩や背中を掴まれると、誰でもびっくりしますよね。
特に認知症の方は、視野が狭くなっていることも多いです。

だから、相手の視界に入る場所から、広い面積で優しく触れるのが鉄則。

ぼくは、

①相手の手首あたりにそっと触れ、
②大丈夫そうなら手のひらに自分の手のひらを重ね、
③ゆっくりと前腕を支えるようにします。

強さは、相手の反応を見ながら「このくらいで大丈夫ですか?」とテストする感覚です。

4. 立つ:立位を“させる”でなく“一緒に起き上がる”誘導

立てる力があるのに座りきりの生活は、心身の機能を低下させます。

でも、無理強いは絶対NG。 ポイントは「立たせる」のではなく「一緒に立つ」という感覚です。

①「せーの、で立ちましょうか」と合図を送り、
②「1、2の…3!」のリズムで、まずはこちらが重心を少し下げてから、相手の重心移動をサポートする
すると、スムーズに立てることが多いです。

記憶のポジティブ化:成功体験を本人・家族・記録に残す

これは5つ目の柱とも言える、とても大切な要素です。

ケアが終わった後、「〇〇さん、ご協力ありがとうございました。おかげでスッキリしましたね!」と成功体験を言葉にして伝えます。

これを本人だけでなく、ご家族にも伝え、もちろん介護記録にもポジティブな言葉で残します。「拒否があった」ではなく「最初は不安なご様子だったが、声かけに応じてくださり、穏やかに入浴できた」というように。

この積み重ねが、次回の「安心」に繋がるんです。

今日から実践できる!具体手順

では、今日からあなたのケアが少し変わるかもしれない、具体的な手順をご紹介します。

  1. 入室前準備:
    • 部屋の中に転倒の原因になるものはないか?(危険物・動線確認)
    • 自分の名札は見えやすいか?
    • 鏡を見て、口角を上げて笑顔の準備!
  2. 入室〜接近:
    • コンコン、と優しくノック。「失礼します」
    • 「〇〇さん、介護士の△△です」と少し離れた場所から名乗る。
    • 相手の反応を見ながら、斜め前の位置にゆっくり近づく。
    • しゃがんで目線の高さを合わせ、間合いが50–70cmになるまで接近。
  3. 声かけテンプレ(A→B→Cの順で):
    • A(目的): 「これから、お着替えをしたいと思います」
    • B(同意): 「ご一緒にお願いしてもよろしいですか?」
    • C(選択肢): 「こちらの青い服と、こちらの赤い服、どちらがお好きですか?」
  4. 触れる順番テンプレ:
    • 相手の視界に入る手元からアプローチ。
    • ①手首にそっと触れる → ②大丈夫なら手のひらを下から支える → ③前腕を優しく握る → ④肩に手を置く。
  5. 立位誘導の合図:
    • 「では、1、2の、3で立ちましょう」と予告。
    • 相手の重心が前に移動するのを感じながら、一緒に力を合わせる。
  6. 終了合図と感謝→成功の言語化→記録:
    • 「はい、終わりましたよ。お疲れ様でした」
    • 「ご協力いただいて、本当に助かりました。ありがとうございます」
    • ご本人の前で「〇〇さん、ご自身の力で立てましたね。素晴らしいです」と成功を言葉にする。
    • 記録には「声かけに頷きあり。穏やかに更衣実施。立位も安定していた」など、できたことを具体的に書く。

声かけのコツ

現場でやりがちな声かけと、ユマニチュードを意識した声かけを比較してみましょう。

×「〇〇さん、お風呂ですよ!早く行きますよ!」
◯「〇〇さん、こんにちは。△△です。気持ちのいいお風呂が沸きました。もしよろしければ、ご一緒しませんか?」

×「(無言で車椅子を押して)はい、トイレ着きました。立ってください」
◯「〇〇さん、トイレに着きました。ここで一度立ち上がってみましょうか。せーの、1、2、3!」

×「口を開けてください!薬を飲まないとダメですよ!」
◯「〇〇さん、お体の調子を良くするためのお薬です。まずはお水を一口飲んでみませんか?」

現場の声

ユマニチュードの成功事例

夕方の帰宅願望。「家に帰らなきゃいけない。子どもたちがお腹を空かせて待っている」と、そわそわしている利用者さん。内心(またかぁ…)と思いつつ、ゆっくりと近づき、正面で名乗り、前腕に触れて安心づくり。

「外の風だけ吸いましょう」と提案。玄関前で写真を見返し、5分で居室へ戻れた。

ユマニチュードのNG例とリスク

ユマニチュードは素晴らしい技術ですが、やり方を間違えると危険を伴います。特に以下の点は絶対に避けてください。

この章は、あなたのキャリアと利用者さんの安全を守るために非常に重要です。

  • いきなり肩や後ろから触る:
    • 相手を極度に驚かせ、恐怖心や不信感を植え付けます。防衛的な反応(暴言・暴力)を引き起こすリスクがあります。
  • 否定・命令・早口:
    • 「ダメです」「早くして」といった言葉は、相手の自尊心を傷つけ、混乱を招きます。ケアへの協力が得られなくなるだけでなく、精神的な苦痛を与えてしまいます。
  • 立位を無理強いする:
    • 最も避けたいのが転倒事故です。相手の体調や能力を無視して無理に立たせようとすると、骨折などの重大な事故に繋がります。これは介護事故として扱われ、法的な責任を問われる可能性もあります。

危険兆候チェックリスト

以下のようなサインが見られたら、一度立ち止まり、アプローチを変えるか、時間を置く勇気を持ってください。

  • 体がこわばっている、後ずさりする
  • 眉間にしわが寄り、険しい表情になっている
  • 手で「あっちへ行け」というような仕草をする
  • ぶつぶつと何かを言っている、声が大きくなる
  • 呼吸が速くなっている
  • 足元がふらついている、立ち上がりが不安定

ユマニチュードの効果と限界

期待できる変化

正しく実践することで、以下のようなポジティブな変化が報告されています。

  • 拒否の減少: ケアが「怖いもの」から「安心できるもの」に変わることで、穏やかに受け入れてくれる場面が増えます。
  • 関係性の改善: スタッフを「敵」ではなく「味方」と認識してくれるようになり、笑顔や会話が増えることがあります。
  • ケア時間の安定化: 拒否対応に費やしていた時間が減り、結果的にスムーズなケアが実現できる場合があります。

ユマニチュードの限界

一方で、限界も理解しておく必要があります。

  • せん妄時や急性期: 意識障害や精神的な混乱が強い状態では、コミュニケーションそのものが困難なため、ユマニチュードの効果は限定的です。まずは医療的な介入が優先されます。
  • 強い疼痛(痛み)がある時: 痛みが強いと、人はどうしても防衛的になります。まずは痛みのコントロールを最優先すべきです。
  • 万能薬ではない: ユマニチュードを試しても、うまくいかない日もあります。そんな時は自分を責めず、「今日はそういう日なんだな」と切り替え、別のアプローチを考えることが大切です。
現場の声

ユマニチュードの失敗事例

昼食の15分後に「ごはん食べてない」と訴える利用者さん。スタッフが、視線・短文・前腕タッチで丁寧に食事を済まされたことを説明するが「そんな訳ない」と不安継続。結局、家族さんから預かっていたおやつのゼリーを召し上がっていただき落ち着かれる。

どうにもならないときは、ユマニチュードよりおやつのゼリー。

導入ステップ(施設・個人)

「全部やるのは大変…」と思いますよね。

大丈夫です。

小さく始めるのが成功のコツです。

小さく始める:3フレーズ×3日→ケースレビュー

まずは、
①「〇〇さん、こんにちは」
②「〜しませんか?」
③「ありがとうございました」
上記の3つのフレーズを、必ず目線を合わせて言う、ということだけを3日間徹底してみましょう。

そして、3日後に「Aさんはこんな反応だった」「Bさんはあまり変わらなかった」など、小さな変化を同僚と話し合ってみる(ケースレビュー)のがおすすめです。

研修・書籍・動画の活用

より深く学びたい場合は、公式の情報を参考にすることをお勧めします。

たとえば、創始者であるイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏の書籍や、日本でユマニチュードの普及に努めている本田美和子先生(国立病院機構東京医療センター)の情報などがおすすめです。

動画作成:一般社団法人 日本ユマニチュード学会

他のケア法との違い

ユマニチュード以外にも、素晴らしいケアの考え方はたくさんあります。

違いを知ることで、引き出しが増えますよ。

スクロールできます
ケア技法/視点特徴・焦点アプローチ
ユマニチュード「ケアをする人とは何か」という哲学に基づき、見る・話す・触れる・立つを技術体系化したもの。コミュニケーション技術の実践
パーソンセンタードケアその人らしさ(パーソンフッド)を尊重するケアの理念・哲学。「その人にとっての意味」を重視する。理念に基づいた個別ケアの実践
ABA的視点(応用行動分析)行動の原理(どんな時に、どんな行動が起きるか)を分析し、環境を調整することで望ましい行動を増やす。環境調整と行動への働きかけ
バリデーション認知症の人の言動や感情を「意味のあるもの」として受け入れ、共感的に関わるコミュニケーション法。共感と傾聴を通じた感情の受容

現場の声【ユマニチュード体験談】

ぼくが経験した、忘れられない事例を一つだけ。

3か月間、入浴を頑なに拒否されていたAさん(90代男性)。

入浴の声かけをすると、いつも「入らん!」と大声を出して、杖を振り回す、ツバを吐く、蹴りを入れるなど……
誰も近づけませんでした。

こりゃ、正攻法では攻略できない。無理ゲーだ。

そんなある日、ぼくはダメ元で覚えたてのユマニチュードを試してみました。

部屋の入り口から名乗り、ゆっくり近づき、目線を合わせ、「Aさん、背中だけでも流しませんか?」と手のひらにそっと触れながら話しかける。

Aさんがジロリとぼくを見る。

(んー今回もダメかな……)

するとAさんは、ぼくの手をじーっと見て、無言で頷いてくれたんです。

そういえば、今まで、大声で拒否されたり、ツバを吐かれるのが前提で、嫌々対応していたのかも。
ちゃんとAさんの気持ちに寄り添ってなかったなぁ。

その日は背中を拭くだけでしたが、Aさんが「ありがとう」と言ってくれた時、ケアは技術だけじゃない、心が通う瞬間の積み重ねなんだと、改めて教えられました。

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よくある質問(Q&A)

忙しい現場で、こんなに丁寧にやる時間はありません。

気持ちは痛いほどわかります。ですが、たとえば5分間の拒否対応が、1分間の丁寧な導入でスムーズな2分間のケアに変われば、結果的に2分間の時短になります。まずは「入室時の最初の10秒」だけ意識することから始めてみてください。

認知症が重度で、反応が全くない方にも効果はありますか?

はい、効果は期待できます。言葉の理解が難しくても、非言語的なコミュニケーション(優しい眼差し、穏やかな声色、心地よい接触)は伝わります。「快」の感覚は記憶に残り、穏やかな時間が増える可能性があります。

スタッフによってやり方が違うと、利用者さんが混乱しませんか?

その通りです。だからこそ、チームで「最低限これだけはやろう」という共通認識を持つことが大切です。まずは朝の申し送りで「今日は〇〇さんへの声かけを肯定語で統一しましょう」など、小さな目標を共有することから始めるのがおすすめです。

まとめ

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事の要約
  • ユマニチュードは、魔法ではなく「関係性を再構築するための具体的な技術」。
  • 基本は「見る・話す・触れる・立つ」の4つの柱。ケアの全ての場面に応用できる。
  • 安全と尊厳が最優先。無理強いはせず、ケアを受ける人の「快」の記憶を積み重ねることを目指します。

ユマニチュードは、ぼくたち介護職が忘れがちな「一人の人間として、相手の尊厳を尊重する」という原点を、具体的な技術として思い出させてくれます。

忙しくてイライラしたときこそ思い出しましょう。

「原点回帰」です。

この記事が、あなたのケアのヒントになれば、これほど嬉しいことはありません。

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この記事を書いた人

【介護業界15年目】
資格:介護福祉士、介護支援専門員、上級心理カウンセラー
施設のリーダーで採用から教育に関わる
現役介護士ならではの「体験談」や「介護現場の声」を発信しています。
「ブラック企業」から「ホワイト企業」に転職した経験を活かし、転職に失敗しない方法も紹介しています。

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