介護の仕事と聞くと、食事介助、入浴介助、排泄介助、おむつ交換。
そんな「介助」を思い浮かべる人が多いと思います。
以前のぼくも、介護の仕事について「利用者さんに喜んでもらうこと」と考えていました。
もちろん、今でも利用者さんに喜んでもらえたらうれしいです。
ただ、介護現場で15年以上働いてきて、少し考え方が変わりました。
介護は、たくさん「してあげる」仕事ではない。
むしろ、あえて手を出さない方が、その人の生活を支えられることがあります。
そう気づいたきっかけのひとつが、職場で業務改善をしたときの経験でした。
「自分でやった方が早い」で、車いすを押していた
介護現場は時間に追われます。
ナースコールが鳴る。別の利用者さんから呼ばれる。食事や入浴の時間も決まっている。
そんな状況では、利用者さんを待つより、自分でやってしまった方が早いことがあります。
ぼくの職場でも、自分で車いすを動かせる利用者さんを、スタッフが押して移動させていました。
理由はシンプルです。
スタッフが押した方が早いから。
もちろん、意地悪をしているわけではありません。
他の利用者さんの対応もある。次の業務もある。できるだけスムーズに仕事を進めたい。
現場で働いていれば、こうなる気持ちはよくわかります。
でも、業務改善をする中で「何を増やすか」ではなく、「何をしないか」を考えるようになりました。
そこで、ふと思ったんです。
「この車いす、ぼくらが押す必要あるのかな?」と。
車いすを押すのをやめてみた
自分で車いすを動かせる利用者さんには、自走してもらうようにしました。
すると、スタッフが車いすを押して誘導する仕事は減ります。
同時に、利用者さん自身が持っている力を使う機会にもなります。
一見すると、スタッフが「楽をしている」ように見えるかもしれません。
でも、全部やってあげることが、必ずしも丁寧な介護とは限らないんですよね。
できることまで介護士が代わりにやってしまえば、その人が自分でやる機会を奪ってしまうこともあります。
「何をしてあげるか」ではなく、「どこまで手伝う必要があるか」を考える。
これも介護職の大事な仕事だと、ぼくは思うようになりました。
仕事を減らしたら、利用者さんの「役割」が増えた
同じ業務改善で、テーブル拭きや食事用エプロンたたみ、新聞折り、チラシを使ったゴミ箱作りなども見直しました。
スタッフが全部やるのではなく、できる利用者さんにはお願いするようにしたんです。
その中に、ホールでうとうとしていることが多かった利用者さんがいました。
その方が、ゴミ箱作りをするようになってから、
「チラシでゴミ箱作るよ」
と、自分からスタッフに声をかけるようになりました。
熱心に作ってくれるので、お礼を伝えると、
「楽しいからいいの」
と笑っていました。
スタッフの仕事は減っています。
でも、その利用者さんには新しい「役割」ができました。
この経験は、ぼくの中にかなり残っています。
介護職がたくさん動いている状態が、必ずしも「いい介護」ではない。
そんなことを考えるきっかけになりました。
介護の主役は、介護士ではない
これは、ぼくだけの考えではありません。
介護保険法第1条では、介護が必要になった人が尊厳を保ち、その人の持っている能力に応じて自立した日常生活を送れるようにすることが、制度の目的として示されています。
また、厚生労働省の介護に関する学習資料でも、介護が必要になっても生活の主体は利用者本人であり、その人らしい生活を支えることが基本とされています。
介護士が主役になってはいけないんですよね。
ぼくらは、利用者さんの人生を代わりに生きる人ではありません。
本人がどう暮らしたいのか。そのために、どこを支えればいいのか。
そこを考える専門職だと思っています。
「喜ばせること」だけが仕事の本質ではない
利用者さんに喜んでもらえるのはうれしい。
「ありがとう」と言われれば、やっぱり励みになります。
でも、利用者さんをその場で喜ばせることと、その人の生活を支えることは、いつも同じとは限りません。
すぐに手を貸した方が喜ばれることもあるでしょう。
一方で、少し待って自分でやってもらう方が、その人の持っている力を活かせる場合もあります。
だから今のぼくは、介護の本質をこう考えています。
介護の本質は、その人が持っている力や意思をできるだけ大切にしながら、その人らしい生活を支えること。
食事介助も、おむつ交換も、入浴介助も、レクリエーションも大切です。
でも、それらは目的ではなく、その人の生活を支えるための「手段」なんだと思います。
自立支援は「自分でやって」と突き放すことではない
ここは、誤解しないようにしたいところです。
「自立支援だから自分でやってください」と、何でも本人に任せればいいわけではありません。
体調や身体機能、その日の状態によって必要な介助は変わります。
安全のために、しっかり介助しなければいけない場面もあります。
大事なのは、「介助する」「介助しない」の二択ではありません。
その人には、今どのくらいの支援が必要なのか。
そこを考え続けることだと思います。
「何のために働いているんだろう」と思った日に
介護の仕事を続けていると、毎日が業務の繰り返しに見えることがあります。
起床介助をして、食事介助をして、おむつ交換をして、記録を書いて。
忙しい日は、目の前の仕事を終わらせるだけで精いっぱいです。
そんなとき、ぼくはときどき考えます。
「この介助は、何を支えるためにやっているんだろう」と。
答えがすぐ出なくてもいいと思います。
ただ、業務の先にいる利用者さんを見るだけで、いつもの仕事の見え方が少し変わることがあります。
介護職の具体的な仕事内容と「何のために行う仕事なのか」を整理したい方は、介護職の仕事内容とは?1日の流れ・施設別の違いを現役介護士が解説も読んでみてください。
また、「最近、介護の仕事にやりがいを感じない」と思っているなら、介護の仕事にやりがいを感じなくなる理由もまとめています。
介護の仕事は、きれいごとだけでは続きません。
忙しいし、イライラする日もあるし、「もう嫌だ」と思う日もあります。
それでも、利用者さんの生活の中に自分の仕事の意味を見つけられる瞬間があります。
ぼくは、そこが介護のおもしろさだと思っています。
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