「利用者さんと信頼関係を築きたいけれど、なかなか心を開いてもらえない……」
「一生懸命に介助しているのに、なぜか自分だけ拒否される……」
介護の現場で、こんな悩みを感じたことはありませんか?
利用者さんとの信頼関係は、介護技術の高さだけで決まるものではありません。
大切なのは、相手の気持ちを尊重し、毎日の小さな約束や声かけを積み重ねることです。
ぼくは15年以上、介護現場で働いてきました。利用者さんとうまく関われず、どうしたらよいのか悩んだ経験もあります。
そして、長く働くほど感じるのは、同じ言葉でも伝え方やタイミングによって、相手の受け止め方が変わるということです。
この記事では、利用者さんと信頼関係を築く7つの方法を、具体的な声かけ例や現場での体験を交えて解説します。
この記事でわかること
- 利用者さんと信頼関係を築く7つの方法
- 介護場面別の具体的な声かけ例
- 信頼関係が壊れてしまうNG対応
- 介助を拒否されたときの対応方法
- 忙しい現場でも実践できる工夫
最初から全部できなくても大丈夫です。次の勤務で、できそうなことを一つ試してみてください。
【筆者紹介】
介護業界15年以上の現役介護士(施設勤務)
※現場経験と公的データ(厚労省など)をもとに執筆しています。
【所持資格】
介護福祉士/ケアマネ/上級心理カウンセラー
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介護職が利用者さんと信頼関係を築く方法7選

信頼関係を築くには、特別な会話術や高度な心理テクニックが必要なわけではありません。
まずは、毎日の介助やコミュニケーションを見直すことが大切です。
利用者さんと信頼関係を築く7つの方法
- ケアの前に名乗り、目的を説明する
- 身体に触れる前に同意を確認する
- 話を否定せず、気持ちまで聴く
- 本人のペースと自己決定を尊重する
- 生活歴や好みをケアに生かす
- 小さな約束を守り、対応を一貫させる
- 笑顔と細かな心配りを大切にする
この7つを意識することで、利用者さんが安心して気持ちや希望を伝えやすい関係を目指せます。
1.ケアの前に名乗り、目的を説明する
まず意識したいのは、介助を始める前の声かけです。
たとえば、居室に入っていきなり布団をめくったり、利用者さんの身体を起こしたりしていませんか?
介護職にとっては毎日繰り返している業務でも、利用者さんにとっては、自分の身体や生活を他人に任せる場面です。
何をされるのかわからなければ、不安になるのも自然なことでしょう。
そこで、次のように説明します。
声かけの例
「おはようございます。介護職の山田です」
「朝食の時間が近いので、そろそろ起きるお手伝いをしてもよろしいですか?」
「まず身体を起こして、そのあと車いすへ移るお手伝いをしますね」
ポイントは、「誰が・何を・なぜするのか」をわかりやすく伝えることです。
特に認知症のある利用者さんの場合、顔なじみの職員でも、そのときの状況によって誰なのかわからなくなることがあります。
毎回説明するのは面倒に感じるかもしれません。しかし、職員が知っていることと、利用者さんが理解できていることは同じではありません。
まずは、相手が安心して介助を受けられるように説明することから始めましょう。
2.身体に触れる前に同意を確認する
移乗、着替え、排泄介助、入浴介助など、介護の仕事には利用者さんの身体に触れる場面が数多くあります。
だからこそ、身体に触れる前に説明し、本人の意思を確認することが大切です。
たとえば、次のように声をかけます。
声かけの例
- 移乗:「車いすへ移るために、腕と腰を支えてもよろしいですか?」
- 入浴:「背中を洗うお手伝いをします。触れても大丈夫ですか?」
- 排泄介助:「下着を整えるお手伝いをしてもよろしいですか?」
言葉で返事をすることが難しい方の場合は、表情、うなずき、視線、身体の緊張なども確認します。
ただし、拒否がないことを同意があると決めつけてはいけません。本人が理解しやすい方法を工夫し、必要に応じてチームで意思決定を支援します。
もし嫌がる様子があれば、いったん手を止めて理由を確認しましょう。
「今は嫌なのですね。何か気になることがありますか?」
「少し時間を置いて、もう一度ご相談してもいいですか?」
拒否の背景には、痛み、不安、羞恥心、体調不良などが隠れている場合もあります。
無理に進めず、必要なケアや安全面について看護師・上司などと相談してください。
厚生労働省の「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」でも、本人の意思を尊重し、意思形成・意思表明・意思実現を支援する考え方が示されています。
3.話を否定せず、気持ちまで聴く



利用者さんから信頼されるためには、相手の話を丁寧に聴くことが欠かせません。
ここで大切なのが「傾聴」です。
傾聴とは、ただ黙って話を聞くことではありません。相手が何を伝えたいのか、どのような気持ちなのかを理解しようとする姿勢です。
たとえば、利用者さんが次のように話したとします。
「家に帰って、子どもの夕飯を作らないといけない」
このとき、「もう家には帰れませんよ」「お子さんは大人ですよ」とすぐに訂正すると、本人の不安が強くなることがあります。
まずは、その言葉の奥にある気持ちを考えましょう。
気持ちを受け止める声かけ
- 「お子さんのことが心配なのですね」
- 「いつもどんな料理を作っていたのですか?」
- 「ご家族のことを大切にされているのですね」
利用者さんは、家族への心配や、これまで担ってきた役割について話したいのかもしれません。
もちろん、すべての発言に同意したり、事実ではないことを積極的に伝えたりする必要はありません。
相手の気持ちを受け止めることと、事実を無条件に肯定することは別です。
本人の不安を減らすには何が必要なのかを、落ち着いて考えることが大切です。
傾聴について詳しく知りたい方は、介護現場で使える傾聴のコツ7選も参考にしてください。
4.本人のペースと自己決定を尊重する
利用者さんの生活の中心は、介護職ではなく利用者さん自身です。
しかし、忙しい現場では、どうしても業務の予定を優先してしまうことがあります。
「早く着替えてください」
「時間なのでお風呂に入りましょう」
こんな言葉が増えていないでしょうか。
もちろん、すべての希望をそのまま実現できるわけではありません。施設の予定や安全面も考える必要があります。
それでも、可能な範囲で本人が選べる場面を作りましょう。
本人が選べる声かけ
- 着替え:「青い服と白い服、今日はどちらにしますか?」
- 飲み物:「お茶とお水がありますが、どちらがいいですか?」
- 入浴:「今と昼食後なら、どちらの時間がよさそうですか?」
小さなことでも、自分で決められる機会があることは大切です。
なお、選択肢は実際に対応できる範囲で提示してください。対応できない時間を提案して、あとから約束を破ることになっては逆効果です。
また、歩行や食事のペースも本人に合わせることが基本です。
急かすことで転倒や誤嚥のリスクが高まる場合もあるため、状態に応じた安全な介助を心がけましょう。
介護職が早く終わらせることより、利用者さんが安心して自分らしく生活できることを大切にしたいですね。
5.生活歴や好みをケアに生かす
利用者さんとの信頼関係を築くには、その人を一人の生活者として知ることが大切です。
これまでの仕事、趣味、家族との思い出、好きな食べ物、生活習慣など。
こうした情報が、毎日のコミュニケーションや介助のヒントになります。
たとえば、以前農業をしていた方なら、畑仕事について話を聞いてみる。裁縫が好きだった方なら、タオルのたたみ方について教えてもらう。
ただし、過去の話をしたくない方や、会話より静かな時間を好む方もいます。相手の反応を見ながら、無理に話を広げないようにしましょう。
そして、生活歴は会話の話題だけでなく、環境づくりにも生かせます。
介護おじさんの現場体験|席替えで変わった利用者さんの様子
ぼくの勤務先で、入居後から「家に帰りたい」と気持ちが落ち込んでいる利用者さんがいました。
職員が声をかけても「早く家に返して」「ここから出して」と訴えられ、なかなか心を開いてもらえませんでした。
気を遣って話しかけるたびに帰宅願望が強くなるように感じ、職員もそっとしておくようになっていました。
ところが、食堂の席替えで隣に座る利用者さんが変わったあと、その方と仲良くなり、会話するようになったのです。
1か月ほど過ぎた頃には笑顔が増え、「ここに来て良かった」と話されるようになりました。
この経験から、ぼくは利用者さん同士の相性や、安心して過ごせる居場所の大切さを感じました。
もちろん、席替えだけが変化の原因だったとは断定できませんし、すべての方に同じ方法が有効とは限りません。
それでも、食堂の席を決めるときに、職員の介助のしやすさだけでなく、利用者さん同士の関係も考える価値はあると感じています。
信頼関係は、介護職と利用者さんの一対一の関係だけで作られるものではありません。
本人が安心できる人間関係や生活環境を整えることも、介護職にできる大切な支援です。
6.小さな約束を守り、対応を一貫させる
信頼関係は、特別なことをするよりも、小さな約束を守ることで少しずつ築かれます。
たとえば、利用者さんからお願いをされたとき。
「あとで来ますね」と伝えたまま、忙しくて忘れてしまった経験はありませんか?
介護職には悪気がなくても、利用者さんは「約束したのに来てくれなかった」と感じるかもしれません。
すぐに対応できないときは、できるだけ具体的に伝えましょう。
約束を守るための声かけ
- 「今は別の方の介助中なので、終わり次第お声がけします」
- 「確認して、昼食前までにお伝えします」
- 「お待たせしてすみません。予定より遅くなりました」
- 「対応できなくなったので、別の職員に引き継ぎました」
時間を約束する場合は、実現できる見込みがあるときだけにしてください。
約束を守れなかったときには、言い訳をするよりも、まず謝罪して状況を説明することが大切です。
また、職員ごとに対応が大きく異なることにも注意しましょう。
利用者さんが入浴を拒否したとき、ある職員は無理に説得し、別の職員は本人の話を聴いて時間を調整する。
こうした対応の違いが続くと、利用者さんも戸惑います。
本人の発言や拒否の理由、うまくいった関わり方を記録し、チームで共有しましょう。
ただし、情報共有は支援に必要な範囲に限ります。個人的な悩みを興味本位で話したり、ほかの利用者さんに漏らしたりしてはいけません。
虐待の疑い、体調悪化、安全上の問題などは一人で抱え込まず、施設のルールに沿って必要な職員や関係機関へ共有してください。
7.笑顔と細かな心配りを大切にする



笑顔や穏やかな声のトーンも、利用者さんと信頼関係を築くうえで大切です。
ただし、いつでも笑顔でいなければならないわけではありません。
利用者さんが悲しい話をしているときには、無理に明るく振る舞うより、落ち着いた表情で話を聴く方が適切な場合もあります。
また、細かな心配りも忘れたくありません。
日常生活で意識したい心配り
- 衣服が乱れていないか確認する
- 寝ぐせや整容について本人の希望を聞く
- 移乗後に姿勢や座り心地を確認する
- 寒さ、暑さ、痛みなどを気にかける
- 周囲に聞かれたくない話は場所を配慮する
- 本人ができることを先回りして奪わない
介護を受ける立場では、遠慮して希望を言えない方もいます。
「何か気になることはありませんか?」と確認するだけでも、本人が希望を伝えるきっかけになります。
ただし、身だしなみや生活習慣には本人の好みがあります。介護職の価値観を押しつけず、希望を確認してから支援しましょう。
介護場面別|信頼関係を築く声かけ例



信頼関係を築く方法はわかっても、実際の現場で何と言えばよいのか迷うことがありますよね。
そこで、介護場面ごとに使いやすい声かけ例をまとめました。
基本は「説明する→同意を確認する→介助中の様子を確かめる」という流れです。
起床・整容の声かけ
介助前:「おはようございます。そろそろ起きるお手伝いをしてもよろしいですか?」
介助中:「ゆっくり起きましょう。痛いところはありませんか?」
介助後:「顔を拭きますか? それとも少し休みますか?」
NG:「早く起きてください!」
言い換え:「朝の準備を一緒に始めましょうか?」
移乗・体位変換の声かけ
介助前:「車いすへ移るお手伝いをします。腕と腰を支えてもよろしいですか?」
介助中:「合図をしたら一緒に動きましょう。痛みがあれば教えてくださいね」
介助後:「座り心地はいかがですか? 足の位置は大丈夫ですか?」
NG:「力を入れて!」
言い換え:「できる範囲で身体を前に動かしてみましょう。ぼくが支えますね」
実際の動作や介助方法は、本人の身体機能、移乗方法、ケア計画に合わせて調整してください。
排泄介助の声かけ
介助前:「トイレに行きたい感じはありますか? 必要ならお手伝いします」
介助中:「衣服を整えますね。寒くありませんか?」
介助後:「不快なところはありませんか? もう少し整えましょうか?」
NG:「また漏らしたんですか?」
言い換え:「気持ちよく過ごせるように、着替えをお手伝いしますね」
排泄介助は特にプライバシーへの配慮が必要です。本人が好む呼び方や表現を確認し、人前で排泄の内容を大声で話さないよう注意しましょう。
入浴・清拭の声かけ
介助前:「今日は入浴の日です。体調はいかがですか? お風呂に入れそうですか?」
介助中:「お湯加減はいかがですか? 背中を洗ってもよろしいですか?」
介助後:「寒くありませんか? 髪を乾かしてから休みましょうか?」
NG:「今日はお風呂の日なので入ってください」
言い換え:「今日はお風呂に入りたい気分ですか? 何か気になることがありますか?」
拒否がある場合は、痛みや寒さ、恥ずかしさ、疲労などの理由を確認し、必要に応じて時間や方法を調整しましょう。
食事介助の声かけ
介助前:「今日のご飯はこちらです。姿勢を整えてから食べ始めましょうか?」
介助中:「食べにくくありませんか? 次のひと口は何がよいですか?」
介助後:「もう少し食べられそうですか? お腹はいっぱいですか?」
NG:「全部食べるまで頑張りましょう」
言い換え:「食べにくいものはありませんか? 好きなものや食べやすいものを確認しましょう」
「頑張って」という言葉が励みになる方もいれば、負担になる方もいます。
大切なのは、食べられない理由を確認することです。
食事量や水分量が少ない場合は、単に無理強いを避けるだけで終わらせず、摂取状況を記録し、必要に応じて看護師や管理栄養士などに相談してください。食形態や水分制限などの個別指示も守りましょう。
口腔ケア・服薬時の声かけ
口腔ケア前:「これからお口をきれいにしましょうか? 痛いところはありませんか?」
口腔ケア中:「苦しくありませんか? 少し休みましょうか?」
服薬時:「お薬の時間です。飲みにくいことや気になることはありませんか?」
NG:「飲まないとダメですよ」
言い換え:「飲みたくない理由を教えていただけますか? 必要なら看護師にも相談しましょう」
薬の変更や服用方法の判断を介護職だけで行わず、医師の指示や施設の手順に従って対応してください。
利用者さんと信頼関係を築くことで期待できる4つのこと



信頼関係を築くことは、利用者さんの安心感だけでなく、日々の介護にもよい影響を与える可能性があります。
1.利用者さんが安心して過ごしやすくなる
介護を受ける場面では、不安や恥ずかしさを感じることがあります。
しかし、自分の希望を聞いてくれる職員がいれば、気になることを伝えやすくなるでしょう。
「この人は自分のことを理解しようとしてくれる」
そう感じてもらえる関係を目指すことが大切です。
2.本人の希望をケアに反映しやすくなる
利用者さんが安心して気持ちを話せるようになると、生活上の希望や困りごとを把握しやすくなります。
たとえば、「本当は朝より夜に入浴したい」「食事のときは静かな席がいい」といった希望です。
実現できること、難しいことを一緒に考えることで、本人の意向に沿ったケアにつながります。
3.体調や生活上の変化を把握しやすくなる
利用者さんが気になることを相談しやすい関係は、体調や生活上の変化に気づくきっかけにもなります。
「最近、食欲がない」「夜になると不安になる」など、何気ない会話から支援に必要な情報が得られる場合もあるでしょう。
ただし、信頼関係があれば必ず異変を早期発見できるわけではありません。日常の観察や記録、看護師などとの連携も必要です。
4.介護職自身のやりがいにもつながる
利用者さんから「ありがとう」「助かったよ」と言われると、うれしく感じることがありますよね。
ぼく自身、長く介護を続けるなかで、利用者さんからの感謝の言葉に励まされてきました。
一方で、感謝されることだけを仕事の目標にする必要はありません。
言葉で気持ちを表現できない方もいますし、相性によって関係づくりに時間がかかることもあります。
利用者さんから好かれることよりも、専門職として安心できる支援を続けることが大切だと、ぼくは考えています。
利用者さんとの信頼関係を壊してしまうNG対応5選



信頼関係を築くために何をするかと同じくらい、何をしないかも重要です。
特に、次の5つには注意しましょう。
注意したい5つのNG対応
- 小さな約束を守らない
- 利用者さんの意見や気持ちを無視する
- 子ども扱いや失礼な言葉遣いをする
- 同じミスや不適切な対応を繰り返す
- プライバシーや秘密を守らない
約束を守らない
「あとで来る」と言って戻らない、「確認する」と言って返事をしない。
こうしたことが続けば、利用者さんは職員の言葉を信用しにくくなります。
守れない約束はしないこと。そして、守れなかったときは説明と謝罪をすることが大切です。
利用者さんの意見や気持ちを無視する
本人が「この席は落ち着かない」と話しているのに、「ここが便利だから」と職員の都合だけで決めてしまう。
これでは、本人が自分の希望を伝える意味を感じられなくなるかもしれません。
対応できない希望でも、まず理由を聴き、何ができるかを一緒に考えましょう。
子ども扱いや失礼な言葉遣いをする
「おじいちゃん」「おばあちゃん」と一括りに呼んだり、必要以上に幼児語を使ったりしていませんか?
親しみを込めているつもりでも、相手が不快に感じることがあります。
原則として名字に「さん」を付けるなど、尊重した呼び方を基本にし、本人が希望する呼び方も確認しましょう。
また、見た目や動作を何でも褒めればよいわけではありません。本人が大切にしていることに関心を持ち、自然な言葉で伝えることが大切です。
同じミスや不適切な対応を繰り返す
利用者さんが「お茶は薄めがいい」と何度も伝えているのに、毎回濃いお茶を提供してしまう。
こうした小さな行き違いが続けば、「自分の話を聞いてくれていない」と感じさせてしまう可能性があります。
利用者さんの好みや要望は、必要に応じて記録し、チームで確認できるようにしましょう。
プライバシーや秘密を守らない
利用者さんから打ち明けられた家族の悩みや個人的な事情を、興味本位で別の職員に話すことは避けてください。
安全や支援に必要な情報共有は大切ですが、共有する相手と目的を限定する必要があります。
本人が安心して話せるように、情報の取り扱いにも十分配慮しましょう。
利用者さんを尊重する関わり方について、さらに学びたい方は介護現場で活かすバイスティックの7原則も参考になります。
利用者さんとの信頼関係が築けないときはどうする?
ここまで7つの方法を紹介しましたが、丁寧に関わっていても、なかなか信頼関係を築けないことがあります。
そんなときに、無理に仲良くなろうとする必要はありません。
大切なのは、うまくいかない理由を整理し、必要な対応を考えることです。
介助を拒否される場合
まず確認したいのは、何が嫌なのかということです。
拒否されたときの確認ポイント
- 痛みや体調不良はないか
- 説明が伝わっているか
- 介助の方法が本人に合っているか
- 時間帯や環境が負担になっていないか
- 羞恥心や不安への配慮が足りているか
理由を確認したうえで、時間を置く、職員を交代する、環境を調整するなどの方法を検討しましょう。
体調の急変や安全上の問題がある場合は、単に時間を置くのではなく、必要な報告や医療的な判断につなげてください。
特定の職員だけ拒否される場合
「ほかの職員なら大丈夫なのに、自分だけ拒否される」
そんな経験があると、自分の対応が悪いのではないかと悩みますよね。
しかし、利用者さんとの相性や、そのときの体調、過去の経験など、さまざまな要因が考えられます。
まずは、うまく対応できている職員の声かけや距離感を観察し、参考にしてみましょう。
それでも難しい場合は、無理に一人で抱え込まず、職員間で役割を調整することも選択肢です。
利用者さん全員から好かれることが、介護職の合格条件ではありません。
重要なのは、苦手な相手にも安全と尊厳を守ったケアを提供できるよう、チームで取り組むことです。
利用者さんとの距離感については、利用者さんに好かれる介護士の特徴7選でも解説しています。
忙しくてゆっくり話を聴けない場合
介護現場では、一人の利用者さんの話をずっと聴いているわけにはいかない場面があります。
ナースコールが重なったり、食事や排泄の介助が続いたり。
ぼく自身、新人の頃は、利用者さんの意思を確認したいのに、ほかの利用者さんに呼ばれて対応を中断しなければならず、申し訳なく感じたことがありました。
そんなときは、短い時間でも相手の気持ちを確認することから始めましょう。
忙しいときの3ステップ
- 受け止める:「眠れなくて不安だったのですね」
- 確認する:「今、一番困っていることは何ですか?」
- 次を伝える:「必要な対応を確認して、またお声がけしますね」
その場で十分に話を聴けなかった場合は、必要な情報を申し送りし、対応が途切れないようにしましょう。
ただし、職員の努力だけでは解決できないほど業務が集中しているなら、人員配置や業務の進め方を見直す必要もあります。
利用者さんとの関わりに余裕がなく、自分を責めてしまう方は、利用者さんに優しくできないときの対処法も読んでみてください。
信頼関係を築くうえで忘れてはいけないこと
利用者さんを大切にすることは、何でも言うことを聞くことではありません。
「あなただけ特別に対応します」「ほかの職員には内緒にしてください」といった関わり方は、職員間の対応に差を生み、あとから問題になることがあります。
ぼくが介護現場で大切にしているのは、やさしく寄り添うことと、必要な線引きをすることを両立させるという考え方です。
もちろん、公平であることは、全員にまったく同じ介助をすることではありません。
利用者さん一人ひとりの状態や希望に応じた個別の支援は必要です。
そのうえで、対応が適切か、チームとして継続できるか、ほかの利用者さんの権利を侵害しないかを考えます。
また、利用者さんの尊厳と同じように、介護職自身の尊厳も大切です。
暴言や暴力を受けたときに、一人で我慢し続けることが信頼関係ではありません。安全を確保し、上司や関係職種と対応を検討する必要があります。
利用者さんにも介護職にも、安心できる環境が必要なのです。
利用者さんとの信頼関係についてよくある質問
Q.初対面の利用者さんには、何と声をかければよいですか?
まずは名前と役割を伝え、これから何をするのか説明しましょう。
たとえば、「介護職の山田です。これから車いすへ移るお手伝いをします。腕を支えてもよろしいですか?」という流れです。
Q.認知症の利用者さんと信頼関係を築くには?
本人が理解しやすい言葉で短く説明し、表情や反応を確かめながら関わることが大切です。
発言をすぐに否定せず、不安や希望に目を向けましょう。ただし、認知症の症状や対応方法は一人ひとり異なります。本人の状態に応じた支援をチームで検討してください。
Q.利用者さんに嫌われていると感じたらどうすればよいですか?
相手の反応だけで「嫌われている」と決めつけず、何が負担になっているのか確認しましょう。
関わる時間帯、声の大きさ、説明の仕方などを見直し、ほかの職員にも相談してください。
無理に好かれようとするより、安定した丁寧な対応を続けることが大切です。
Q.利用者さんと信頼関係を築くには、どのくらい時間がかかりますか?
決まった期間はありません。早い段階で安心して話してくれる方もいれば、関係づくりに時間がかかる方もいます。
短期間で信頼を得ようと焦らず、本人のペースに合わせて関わりを積み重ねましょう。
Q.信頼関係があれば介助拒否はなくなりますか?
必ずなくなるわけではありません。
拒否には痛み、体調、羞恥心、不安、本人の希望などさまざまな理由があります。
信頼関係があっても、嫌なことは嫌だと伝えられる関係が望ましい場合もあります。
拒否そのものを問題視するのではなく、その理由を理解し、必要なケアをどう提供するか考えましょう。
まとめ|利用者さんとの信頼関係は、毎日の小さな行動から生まれる
今回は、介護職が利用者さんと信頼関係を築く7つの方法を紹介しました。
信頼関係を築く7つの方法
- ケアの前に名乗り、目的を説明する
- 身体に触れる前に同意を確認する
- 話を否定せず、気持ちまで聴く
- 本人のペースと自己決定を尊重する
- 生活歴や好みをケアに生かす
- 小さな約束を守り、対応を一貫させる
- 笑顔と細かな心配りを大切にする
信頼関係は、一度の声かけで完成するものではありません。
そして、利用者さん全員から好かれなければならないわけでもありません。
ぼくが大切だと思うのは、相手を一人の人間として尊重し、安心してケアを受けられるように関わり続けることです。
もし明日の勤務で一つだけ実践するなら、身体に触れる前に、何をするのか説明し、本人の意思を確認してみてください。
ほんのひと言かもしれません。
でも、その積み重ねが信頼関係の土台になると、ぼくは考えています。
ぼくも介護士。あなたの仲間です。
お互い、利用者さんにも自分自身にも、やさしい介護を続けていきましょう。
では、また。
参考資料
- 厚生労働省|認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
- 厚生労働省|介護職員初任者研修におけるコミュニケーション技術等の内容
- 公益社団法人日本看護科学学会|傾聴
- J-STAGE|介護士が介護サービス利用者と信頼関係を構築するためのソーシャルスキル
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