「またナースコール……」
「どうして今なの?」
利用者さんにイライラして、思わず強い口調になりそうになった。
そんな自分に気づいて、「介護士なのに、こんなことで怒る自分はダメなのかな」と落ち込んでいませんか?
ぼくも介護士として15年以上働くなかで、利用者さんにキレそうになったことがあります。とくに夜勤明けのモーニングケアで、ナースコールやセンサーマットが重なり、思うように仕事が進まないときはイライラしやすくなりました。
だから、「怒るなんて介護士失格」と責めるつもりはありません。
大切なのは怒りをゼロにすることではなく、怒りが利用者さんへの言動や介助に混ざる前に止めることです。
この記事では、利用者さんにキレそうになった瞬間にできる対処法と、怒りを繰り返さないために現場で見直したいことを、ぼくの実体験も交えて解説します。
- 怒りを感じることと、利用者さんへ怒りをぶつけることは分けて考える
- キレそうになったら「止める→離れる→交代→記録→共有」の5ステップ
- 怒りは本人の性格だけでなく、疲労・時間・対応の難しさ・職場環境が重なって強くなる
- 利用者さんの尊厳と同じように、介護士の安全や尊厳も守る
【筆者紹介】
介護業界15年以上の現役介護士(施設勤務)
※現場経験と公的データ(厚労省など)をもとに執筆しています。
【所持資格】
介護福祉士/ケアマネ/上級心理カウンセラー
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利用者にキレそうになったら「そのまま介助を続けない」
利用者さんに怒りがこみ上げてきたとき、最初にやってほしいのは「もっと我慢すること」ではありません。
自分の怒りが介助に混ざり始めたと感じたら、いったん手を止めてください。
怒りを感じること自体と、怒鳴る・無視する・乱暴に介助するといった行動は別です。
高齢者虐待防止法では、養介護施設従事者等による「著しい暴言」「著しく拒絶的な対応」など、高齢者に著しい心理的外傷を与える言動も心理的虐待に含まれています。
もちろん、一度声が強くなっただけで機械的に「虐待」と判断できるものではありません。
ただし、次のような変化に自分で気づいたら、介助を続けるより一度止まった方が安全です。
- 声がいつもより大きくなっている
- 「早くして」と急かしたくなる
- 利用者さんの訴えを無視したくなる
- 介助の手つきが荒くなりそうになる
- 「またか」「もういい加減にして」と頭の中で繰り返している
この段階で離れられれば、利用者さんも自分も守れます。
介護士がキレそうになったときの5ステップ
怒りが強くなったときは、「落ち着かなきゃ」と頭の中だけで何とかするより、行動を決めておく方が実践しやすいです。
- 介助を止める:まず手を止めます。移乗やトイレ介助中なら、利用者さんが転倒しない安全な状態をつくることを優先します。
- 少し離れる:安全を確保できたら物理的に距離を取ります。怒りの対象から離れるだけでも、次の行動を考える時間を作れます。
- ほかの職員に交代を頼む:「今ちょっと余裕がないので交代をお願いします」と伝えて構いません。一人で最後まで対応することだけが責任ではありません。
- 事実を記録する:「わがままだった」ではなく、「ナースコールが○回続いた」「介助時に大声があった」など、できるだけ事実で残します。
- チームで共有する:自分だけの問題にせず、どうすれば同じ場面で負担を減らせるかを考えます。
「6秒我慢できるか」より、「キレそうになったら安全に交代できるか」の方が現場では重要です。
なぜなら、介護はチームケアですから。
深呼吸したり数秒待ったりすることも、気持ちを切り替える方法の一つです。ただ、それだけで何とかしようとすると、疲労や人手不足など根本原因は残ったままになります。
個人の努力より、チームの協力。
怒りを我慢する仕組みではなく、怒りをぶつけなくて済む仕組みを作る。
ぼくは、この考え方の方が大切だと思っています。

介護士が利用者にキレそうになるのは「性格」だけが原因ではない
利用者さんにイライラしたとき、「自分は短気だから」「介護士に向いていないから」と、自分の性格だけを原因にしてしまう人がいます。
しかし、介護現場の怒りはもっと複雑です。
厚生労働省が2026年3月に公表した令和6年度の高齢者虐待に関する調査では、養介護施設従事者等による虐待判断件数は1,220件でした。
虐待が発生した事例について要因を複数回答で整理すると、「職員の虐待や権利擁護等に関する知識・意識の不足」に加え、「職員のストレス・感情コントロール」62.5%、「職員の業務負担の大きさ」40.9%なども挙げられています。
これは「イライラしている介護士の62.5%が虐待する」という意味ではありません。あくまで、虐待が起きた事例について発生要因を整理した結果です。
それでも、虐待防止を「本人が怒らないように頑張る」だけで考えるのは不十分だと分かります。
現場では、次のようなものが重なったときに余裕を失いやすくなります。
- 夜勤明けや連勤による疲労
- モーニングケアなど時間に追われる場面
- ナースコールやセンサー対応の重なり
- 介助拒否や同じ訴えが繰り返される場面
- 利用者さんからの暴言・暴力
- 交代できる職員がいない人員体制
ぼくが一番イライラしやすかったのは、夜勤明けのモーニングケアです。
利用者さんを起こしても起きない。
おむつを外されてマットレスまで尿で汚れている。
そこへナースコールやセンサーマットの対応が重なる。
時間に追われていると、普段なら受け流せることでもイライラしました。
「絶対に感情をぶつけてはいけない」と自分に言い聞かせ、笑顔を作って理性で抑えていました。ただ、個人の我慢だけでは、忙しさや業務の重なりそのものは変わりません。
「介護士なんだからイライラしないようにしよう」で終わらせず、何が自分の余裕を奪っていたのかまで振り返ることが再発防止につながります。



利用者さんの言動に理由があっても、介護士が何でも我慢する必要はない
利用者さんが怒ったり、同じ訴えを繰り返したり、介助を拒否したりするときは、その背景を考えることが大切です。
たとえば、体調の変化、不安や混乱、認知症による症状、周囲の環境、介助方法や声かけ、タイミングなどが影響している可能性があります。
「なぜこの行動が起きているんだろう?」と考えることで、対応方法が見つかることもあります。
ただし、ここで一つ言いたいことがあります。
利用者さんの行動を理解しようとすることと、介護士が暴言や暴力を無限に我慢することは別です。
ぼくは、利用者さんの尊厳を守るのと同じように、介護士の尊厳や安全も守られるべきだと考えています。
どちらか一方を大切にするのではありません。
利用者さんも職員も安心できる環境をつくることが、結果として良い介護につながります。
利用者さんから暴言・暴力を受けているなら一人で対応しない
利用者さんから怒鳴られる、叩かれる、物を投げられるといったことが続いているなら、感情コントロールだけで解決しようとしないでください。
厚生労働省も介護現場におけるハラスメント対策の中で、介護職員が安心して働けるよう、ハラスメント対策を含めた職場環境・労働環境の改善が必要だとしています。
危険を感じたときは距離を取り、管理者・看護職・相談員などと情報を共有して、組織として対応することが大切です。
以前、待たされると怒鳴ったり、物を投げたりする利用者さんがいました。あるとき、ぼくが出したお茶がぬるいと怒鳴り、湯呑みを投げつけられました。間一髪で避けましたが、湯呑みは床に落ちて割れています。
スタッフが施設長へ相談し、最終的には施設として退去していただく判断になりました。これは一つの施設での事例であり、同じ対応がすべてのケースに当てはまるわけではありません。
ただ、この経験から「介護士が我慢し続けることだけが解決策ではない」と強く感じています。
利用者さんからの暴言・暴力への具体的な対応は、介護現場で利用者さんから暴言・暴力を受けたときの対応でも詳しく解説しています。
怒りが繰り返すなら「自分で変えられること」と「職場に任せること」を分ける
利用者さんに何度もキレそうになるなら、「もっと優しい介護士にならなきゃ」と自分だけを変えようとしないでください。
まず、問題を3段階に分けて考えると整理しやすくなります。
| 段階 | 見直すこと |
|---|---|
| 自分でできること | 怒りのサインに気づく/一度離れる/早めに交代を頼む/事実を記録する |
| チームで変えること | 対応方法を統一する/ケア方法を見直す/情報共有する/負担が偏らないよう調整する |
| 職場として変えること | 人員配置/休憩・交代体制/暴言・暴力への方針/管理者の支援体制を見直す |
たとえば、「この利用者さんの介助ではいつもイライラする」と気づいたなら、自分の感情だけを見るのではなく、時間帯や介助方法、職員配置なども振り返ります。
それでも改善せず、相談しても「介護士なんだから我慢して」と放置されるなら、それは自分だけでは変えにくい問題です。
辞めるか、我慢するか。その二択にしなくても構いません。
担当を変えてもらう、異動を相談する、勤務を調整する、他の施設の求人だけ見て比較するなど、中間の選択肢もあります。
利用者さん以外にも、仕事量や人間関係などさまざまな場面でイライラが増えている方は、介護職がイライラする原因と対処法も参考にしてください。原因を広く整理できます。



すでに利用者さんを怒鳴った・乱暴な介助をしてしまったら
「もう怒鳴ってしまった」「介助が乱暴になってしまった」という場合は、なかったことにしないことが大切です。
隠すより、早い段階で事実を共有する方が、利用者さんも自分も守れます。
- まず利用者さんの安全を確認する
- 管理者や虐待防止の担当者へ速やかに報告する
- 何が起きたのかを事実で記録する
- 直前の状況や負担を振り返り、再発防止策を決める
高齢者虐待防止法の対象となるケースでは、養介護施設従事者等が「養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者」を発見した場合、市町村へ速やかに通報することが定められています。
施設内だけで抱え込まず、必要な通報を含めて適切に対応してください。
失敗を隠して一人で抱えると、次に同じ状況になったときも「自分の理性だけ」で止めることになります。
報告するのは、自分を責めてもらうためではありません。同じことを繰り返さない仕組みに変えるためです。
介護士が利用者にキレそうなときのよくある質問【Q&A】
利用者さんに怒りを感じるだけでも虐待になりますか?
怒りという感情と、利用者さんに対して行う言動は分けて考えましょう。高齢者虐待防止法では、暴行や著しい暴言、著しく拒絶的な対応など具体的な行為が定められています。
怒りを感じた時点で自分を責めるより、「今は余裕がない」と気づき、利用者さんへぶつけない行動へ切り替えることが大切です。
キレそうなときは6秒数えれば大丈夫ですか?
数秒待ったり深呼吸したりすることで、一度立ち止まれる人もいるでしょう。
ただし、それだけに頼らない方が安全です。怒りが強いときは、介助を止める、距離を取る、ほかの職員へ交代を頼むなど、具体的な行動を優先してください。
認知症の利用者さんなら暴言や暴力も我慢するべきですか?
我慢し続ける必要はありません。
認知症による不安や混乱など、行動の背景を考えることは大切です。一方で、職員の安全確保も必要です。危険を感じるときは距離を取り、一人で対応せず、チームや管理者へ相談してください。
相談しても職場が何もしてくれない場合はどうすればいいですか?
まずは、いつ・どこで・何が起きたのかを記録し、管理者や施設内の担当者へ具体的に伝えます。
それでも危険な状態が放置され、同じことが繰り返されるのであれば、異動や勤務変更、ほかの職場の情報収集なども選択肢です。
転職だけが答えではありません。でも、我慢だけも答えではありません。
まとめ|怒りをなくすより、怒りをぶつけない仕組みを作ろう
介護士も人間なので、利用者さんにイライラしたり、怒りを感じたりすることはあります。
そこで「自分は介護士失格だ」と責め続けても、状況は変わりません。
必要なのは「怒ってはいけない」と我慢することではなく、怒りが行動に変わる前に止められる仕組みです。
- 介助を止める
- 安全を確保して離れる
- ほかの職員へ交代する
- 事実を記録する
- チームで原因と対策を共有する
利用者さんにやさしく寄り添うことは大切です。
でも、介護士が限界まで我慢することが「やさしい介護」だとは、ぼくは思いません。
利用者さんも、介護士も大切にする。そのために、一人で抱え込まず、チームや職場の仕組みを使ってください。
もし最近、利用者さんだけでなく同僚や仕事そのものにもイライラすることが増えているなら、次は介護職がイライラする原因と対処法で、「自分は何に余裕を奪われているのか」を整理してみてください。
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「辞める」か「我慢」の二択じゃない。
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