「何度説明しても、聞こえていないようだ」
「大きな声で話しているのに伝わらない」
介護現場で、こんな経験はありませんか?
耳が遠い高齢者への声かけは、声量だけで解決するとは限りません。まず相手の視界に入り、正面から、短い言葉をゆっくり・はっきり伝える。これが基本です。必要なら環境を整え、筆談や身振りに切り替えます。
ぼくは施設で15年以上介護に携わってきました。この記事では、実際の介護場面で試せる「5つのコツ」、伝わらないときの対処法、注意すべき聞こえの変化をお伝えします。
この記事の結論
- 声をかける前に視界に入り、相手がこちらを見てから話す
- 一文を短く、普通の声を基本に、ゆっくり・はっきり伝える
- テレビなどの雑音を減らし、表情・身振り・筆談も使う
- 重要事項は「話したか」ではなく「本人に伝わったか」で確認する
- 急な聞こえの変化や耳の不調は、医療職と連携して受診を検討する
厚生労働省も、正面から口の動きを見せて話すこと、聞き取りやすい言葉への言い換え、テレビの音を消すなどの配慮を紹介しています。参考:厚生労働省「聞こえにくさ」感じていませんか?
【筆者紹介】
介護業界15年以上の現役介護士(施設勤務)
※現場経験と公的データ(厚労省など)をもとに執筆しています。
【所持資格】
介護福祉士/ケアマネ/上級心理カウンセラー
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耳が遠い高齢者と会話するときのコツ5選
まずは、毎日の声かけで取り入れやすい5つに絞って紹介します。全部を一度に変える必要はありません。

① 正面から、目線を合わせて話す
背後から突然「お風呂に行きますよ」と話しかけても、本人は声の主や話題がわからないことがあります。まず視界に入り、名前を呼ぶか軽く手を振るなどして注意を向けてもらいましょう。
相手がこちらを見たら、顔や口元が見える位置で話します。車椅子やベッドの方には、無理のない範囲で目線の高さも合わせます。逆光や暗い場所も避けましょう。耳元で怒鳴るのではなく、表情を見ながら伝えることがポイントです。
② ゆっくり・はっきり、短い文で伝える
ゆっくり話すのは大切ですが、一文字ずつ不自然に区切る必要はありません。まず話題を伝え、一つの文には一つの用件を入れます。
伝わりにくい例:「もうすぐご飯なので、今のうちにトイレへ行って、そのあと食堂に来てください」
伝わりやすい例:「これからお昼ごはんです」→(反応を待つ)→「その前に、お手洗いはいかがですか?」
言い直しても聞き取れない場合は、同じ文を大声で繰り返すのではなく、言葉を変えてみましょう。厚生労働省は「4(し)」を「よん」、「7(しち)」を「なな」と言い換える例も示しています。
③ 表情を見せ、相手の反応を待つ
笑顔やうなずきは、会話の安心感を支える手がかりです。ただし、表情だけで理解したと決めつけないことも大切です。返事を急がせず、本人の表情や言葉を待ちましょう。
つらさを訴えている場面では、無理に笑顔をつくるより、落ち着いた表情で話を受け止めるほうが適切です。高齢者を子ども扱いせず、大人同士として丁寧に接します。
④ 怒鳴らず、聞き取りやすい声で話す
加齢性難聴では高い音が聞こえにくくなる傾向があります。しかし、だからといって誰にでも極端な低音がよいわけではありません。普通の声を基本に、自然な高さで、口をはっきり動かして話すことを意識しましょう。
相手が聞き取りやすい音量には個人差があります。少し音量を調整してもよいですが、無理に大声を張り上げると、かえって不快だったり聞き取りづらかったりする方もいます。
⑤ ジェスチャー・指差しを組み合わせる
言葉だけで伝わりにくいときは、身振りや実物を見せて補います。たとえば、「お茶を飲みますか?」と尋ねるときに湯のみを見せると、話題がわかりやすくなります。
耳が遠い方と話すときには、身振り手振りを大きめに使うことも一つの方法です。ただし、身振りだけで本人の意思を推測せず、うなずき・言葉・指差しなどで確認するようにします。
5つ試しても伝わらないときの対処法
同じ説明を何度も繰り返す前に、「聞こえる条件」を見直しましょう。東京都の福祉情報サイトでも、静かな場所、正面からの対話、短い文、メモの活用を勧めています。参考:とうきょう福祉ナビゲーション「高齢者の難聴」
テレビや周囲の物音を減らす
テレビの音、食堂のざわめき、複数の職員の声が重なると、言葉を聞き分けるのが難しくなります。可能ならテレビを消す、静かな場所へ移る、話す職員を一人にするなどの環境調整を先に行います。
筆談や大きな文字を使う



受診日時や予定など、聞き間違いを避けたい内容は筆談が役立ちます。読みやすい大きさで短く書き、紙を見せながら説明しましょう。
筆談の例:「11月5日(木) 14時 病院へ行きます」
「この予定でよろしいですか?」
ただし、筆談なら必ず伝わるわけではありません。視力、読み書きのしやすさ、認知機能、本人の好みによって使いやすい方法は違います。紙を渡しただけで「説明済み」にせず、本人の反応を確認することが大切です。個人情報を記したメモの扱いにも注意しましょう。
補聴器は装着状況を確認し、自己判断で調整しない
補聴器を使っている方なら、本人の希望を確認したうえで、装着しているか、電池切れや充電切れが疑われないかなどを、施設のルールに沿って確認します。聞こえにくさが続くときは看護師や家族、補聴器を扱う専門職につなぎます。
補聴器は音を補う道具ですが、付ければすべての会話が聞こえるわけではありません。厚生労働省も、導入や調整には耳鼻咽喉科医への相談を勧めています。参考:厚生労働省「聞こえの不調はさまざま」
介護現場で使える「伝わる声かけ」の例文
例えば、入浴や移動の際は次のように言い換えられます。これはあくまで声かけの例であり、本人の意向や介助の必要性に合わせて調整してください。
| 場面 | 避けたい伝え方 | 伝わりやすい伝え方 |
|---|---|---|
| 入浴 | 「もうお風呂の時間ですよ、早く来て」 | 「お風呂の時間です」→「今、入りますか?」 |
| 移動 | 「そこ危ないから早くこっちへ」 | 正面から合図→「こちらで一度、止まりましょう」 |
| 受診予定 | 口頭で日時を一気に説明 | 「5日、午後2時」と紙に書き、本人と確認 |
| 食事 | 複数の指示をまとめて伝える | 「お昼ごはんです」→「食堂へ行きますか?」 |
相手がうなずいただけでは、内容を聞き取れているか分からない場合もあります。重要な予定や介助内容は、可能な範囲で本人の言葉・指差し・返答を確認し、必要なら説明方法を変えましょう。
【体験談】耳が遠いと思ったら、耳垢が詰まっていた
以前、新しく利用を始めた方の耳が聞こえにくい原因を探る中で、耳垢が奥まで詰まっていたことがありました。手前の耳垢だけでは対応しきれず、耳鼻咽喉科を受診。その後、本人から「聞こえるようになったよ」と言ってもらえた経験があります。
この経験からぼくが伝えたいのは、「高齢だから耳が遠い」と決めつけないことです。加齢以外にも耳垢の詰まりや中耳炎など、原因が見つかる場合があります。
ただし、介護職が奥の耳垢を耳かきなどで無理に取り除くのは危険です。耳の痛みや詰まりなども含め、看護師に報告し、必要に応じて耳鼻咽喉科へ相談しましょう。参考:日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「奥に溜まった耳垢は自分で取らないで」
「いつもと違う聞こえ方」は職員間で共有する
単に会話しづらいだけだと思っても、本人の体調変化が隠れている場合があります。特に、急に聞こえなくなった、片耳だけ急に聞こえにくい、耳鳴りやめまいがあるといったときは、「年齢のせいだろう」と放置せず、速やかに看護師や医療職へ報告して受診につなげましょう。
申し送り・記録で共有するポイント
- いつから、どちらの耳が、どの程度聞こえにくいのか(本人の訴え・観察を分ける)
- 正面からの声かけ、静かな場所、筆談など、試した方法
- 本人が聞き取れた・聞き取りにくかった場面
- 痛み、耳鳴り、めまいなどの訴えと、医療職への報告状況
「耳が遠い人」とだけ記録するより、「正面から短い文で話すと返答あり」「テレビを消すと会話しやすかった」など、次の勤務者が使える情報を残すほうが実用的です。
耳が遠い高齢者への声かけで避けたいこと



- 後ろから急に声をかける:驚いて振り返り、バランスを崩すおそれがあります。
- 大声で何度も怒鳴る:伝わらない原因が周囲の雑音や言葉の聞き分けにあることもあります。
- 「さっき言ったでしょう」と責める:聞こえにくさと本人の理解力・意欲は別の問題です。
- 「わからないはず」と決めつける:専門用語や初めて聞く言葉は、必要なら誰に対しても説明します。
- 子ども扱いや馴れ馴れしい言葉遣い:本人の希望を尊重し、基本は丁寧な言葉で対応します。
高齢者全員が新しい言葉を知らないわけではありません。「年齢」で判断するのではなく、「その方に合う伝え方」を見つけることが大切です。
よくある質問
耳が遠い方には、低い声が正解ですか?
高い音を聞き取りにくい方は多いですが、聞こえ方には個人差があります。無理に低くするより、自然な声ではっきり話し、相手の反応を見ながら調整しましょう。
マスクをしていて口元が見えません。どうすればいいですか?
静かな場所で、正面から、短い言葉と身振り・筆談を組み合わせましょう。マスクの着脱は施設の感染対策や状況に従い、自己判断で外さないようにします。
何度も聞き返されてイライラします。どうしたらいいですか?
同じ言葉を繰り返すだけでは、お互いに疲れてしまいます。まず雑音を減らし、一文を短くして、別の言葉に言い換えてみてください。それでも難しければ筆談に切り替え、職員間で対応方法を共有しましょう。
「うん」と返事があれば伝わったと考えてよいですか?
必ずしもそうとは限りません。日時、受診、介助の同意などの重要事項は、本人が理解しやすい方法で確認することが必要です。返答が曖昧な場合は説明を工夫し、必要に応じて他の職員や医療職と連携します。
まとめ|大声よりも「伝わる条件」を整えよう
耳が遠い高齢者との会話では、正面から・短く・ゆっくり・はっきり・視覚情報も使うを意識してみてください。大きな声を出す前に、環境と伝え方を整える。これが最初の一歩です。
ぼくが介護の現場で感じているのは、「伝えたつもり」と「伝わった」は違うということ。忙しいときほど、目の前の利用者さんが安心して意思表示できるようにしたいですね。
まずは今日、いつもの声かけを一文短くすることから始めてみませんか。
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