「名前も日付も確認したのに、誤薬が起きた……」
介護施設での服薬介助は、利用者さんの命に関わる大切な業務です。一方で、忙しい時間帯に複数の利用者さんへ配薬する現場では、どれだけ気をつけていてもヒューマンエラーが入り込む余地があります。
厚生労働省の「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」でも、誤薬・与薬漏れの要因として、確認不足、他業務との重複、チーム内で服薬業務の仕組みが統一されていないことなどが挙げられています。
誤薬を防ぐポイントは「もっと注意する」ではなく、間違いが起こりにくい仕組みをつくることです。
介護士歴15年以上のぼく自身、写真や氏名の表示、ダブルチェックまで行っても誤薬が起きる現場を経験してきました。この記事では、その経験と厚生労働省の最新ガイドラインをもとに、誤薬の原因、防止策、起きてしまったときの対応まで整理します。
- 誤薬は「職員の注意力」だけでは防ぎきれない
- 配薬準備と配薬時を分け、複数段階で確認する
- 服薬中の「ながら業務」と中断を減らす
- 薬を渡したあと、飲み込むところまで確認する
- 誤薬発生時は自己判断せず、速やかな報告・連携を優先する
介護施設の「誤薬」とは?取り違えだけではない
介護現場でいう誤薬は、「Aさんの薬をBさんに飲ませた」という取り違えだけではありません。
厚生労働省のガイドラインでは「誤薬・与薬漏れ」として、服薬業務で起こるさまざまな事故を取り上げています。
| 起こりやすいミス | 具体例 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 利用者の取り違え | 別の利用者さんの薬を渡す | 氏名と本人を照合する |
| 服用時点の間違い | 朝食後薬を別の時間に配薬する | 日付・服用時点を確認する |
| 与薬漏れ | 薬を準備したまま服薬されていない | 服薬まで確認する |
| 服薬確認不足 | 落薬や口腔内残留を見逃す | 飲み込みまで確認する |
薬を正しく準備しただけでは服薬介助は終わりません。利用者さん本人へ正しい薬を渡し、実際に服用されたところまで確認して、初めて一連の服薬介助が完了します。

【筆者紹介】
介護業界15年以上の現役介護士(施設勤務)
※現場経験と公的データ(厚労省など)をもとに執筆しています。
【所持資格】
介護福祉士/ケアマネ/上級心理カウンセラー
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介護施設で誤薬が起きる主な原因
誤薬が起きると、「誰が間違えたのか」に目が向きやすくなります。しかし、人だけを見ていると同じ事故が繰り返される可能性があります。
厚生労働省の事故予防ガイドラインでは、誤薬・与薬漏れが起きる要因として、次のような問題が示されています。
- 薬の確認が十分ではない
- 服薬と他の介助を同時に行っている
- 作業の途中で呼ばれ、中断される
- 誰が服薬を担当するのか曖昧になっている
- 服薬の手順がスタッフ間で統一されていない
実際、厚生労働省が紹介するケーススタディでは、食事の下膳と配薬を並行していたことや、服薬業務の担当が明確ではなかったことが事故の背景として挙げられています。
「ミスをする職員を探す」より、「ミスが起きても事故になる前に止められる仕組み」を考えることが大切です。
介護施設で誤薬を防ぐ7つの対策
ここからは、介護現場で実践しやすい誤薬防止策を7つ紹介します。



1.配薬準備と配薬時を分けて確認する
まず見直したいのが、薬を準備する段階と利用者さんへ渡す段階を分けて考えることです。
厚生労働省も、「配薬準備」と「配薬時」のそれぞれで対策を講じるよう示しています。
- 配薬準備時:薬包の氏名、日付、服用時点などを確認
- 配薬時:目の前の利用者さんと薬包の情報を再度照合
- 服薬後:実際に飲み込めたことを確認
「準備したときに確認したから大丈夫」と考えず、工程が変わるたびに確認するのがポイントです。
2.本人・氏名・日付・服用時点を声に出して照合する
薬包を手に取ったら、施設で決められた確認項目を一つずつ照合します。
ぼくの職場では、薬包に印字された氏名・日付・朝食後や夕食後などの服用時点を声に出して確認しています。
利用者さん自身が答えられる場合は本人にも確認してもらい、難しい場合は顔、氏名表示、座席など複数の情報から本人確認を行います。
「いつもこの席だから」「この薬包の色だから」といった思い込みだけで判断しないことが大切です。
3.服薬中は「ながら業務」をしない
食事介助、下膳、ナースコール、他利用者さんへの対応などを同時に行うと、確認が途中で途切れやすくなります。
服薬業務をしている間は、できる限り他の業務を重ねない仕組みにすることが重要です。
厚生労働省も、服薬業務中は他のケアにあたらず専念できる環境や、作業を中断されにくい環境を整えることを勧めています。



4.顔写真・氏名表示・保管場所を見える化する
確認を職員の記憶だけに頼らないことも大切です。
誤薬を防ぐため、配薬BOXには利用者さんの顔写真とフルネームのシールを貼り、座席のテーブルにもフルネームを表示しています。
服薬時はスタッフ2名で、氏名・日付・服用時点などを声に出して確認。2名で利用者さんの前まで行く方法や、1名が服薬介助を行い、もう1名が服薬終了まで見届ける方法も実践してきました。
「誰の薬か」がひと目で分かる環境は、確認を助けてくれます。
ただし、表示があるから確認を省いてよいわけではありません。見える化は確認の代わりではなく、確認を確実にするための補助として使います。
5.薬を渡して終わりにせず、服薬まで確認する
正しい薬を渡しても、利用者さんが飲み込めていなければ与薬漏れにつながります。
- 手やテーブルに薬が残っていないか
- 床へ落としていないか
- 口の中に残っていないか
- 実際に服用できたか
厚生労働省のガイドラインでも、飲み込んだかどうかまで確認することをマニュアルに定めることが重要とされています。
服薬が終わったら、その場で記録するルールにすると「飲ませたつもり」「あとで記録しようと思って忘れた」といった混乱も減らしやすくなります。
6.薬の変更情報を多職種で共有する
入退院、受診、処方変更などがあった直後は、いつもの薬と内容が変わっている可能性があります。
変更があったときは、介護職だけで判断せず、看護職、医師、薬剤師などと情報を共有しましょう。
高齢者では薬の種類が多くなったり、服用方法が複雑になったりすることもあります。必要に応じて、医師や薬剤師と相談しながら一包化などの方法を検討することも選択肢です。
「飲みにくそうだから砕く」「飲み忘れたから次に2回分飲ませる」など、薬の扱いを介護職だけで変更しないでください。迷ったときは施設の手順に沿って看護職・医師・薬剤師へ確認しましょう。
7.ヒヤリハットを共有して手順を更新する
誤薬を防ぐうえで、本事故だけでなく「危なかった」で終わった出来事を集めることも重要です。
「別人の薬を持って行きそうになった」「薬包を開ける直前に日付違いへ気づいた」といった事例には、事故を防ぐヒントがあります。
介護現場のヒヤリハット報告書の書き方も参考にしながら、個人の反省だけで終わらせず、チームで原因を共有しましょう。
「誰が悪かったか」で終わらせず、「次はどうすれば同じところで間違えないか」まで決めることが再発防止です。
ダブルチェックをしても誤薬が起きる理由
「2人で確認すれば絶対に大丈夫」と考えてしまいがちですが、現場ではそうとも限りません。
ぼくの職場では、かなり入念にダブルチェックを行っていても誤薬事故が起きたことがあります。
2人とも同じ思い込みをしてしまったり、「相手が確認しているだろう」と考えて他人任せになったりしたことが原因でした。
人が行う以上「100%大丈夫」はない。この経験から、確認の人数だけ増やすのではなく、誰が何を確認するかまで明確にする必要があると感じています。
たとえば、2人で同時に薬包を眺めて「大丈夫ですね」と確認するよりも、それぞれが独立して氏名や服用時点を確認するほうが、確認の意味は明確になります。
ダブルチェックそのものを目的にせず、事故を止めるために「何を」「いつ」「誰が」確認するのかを決めておきましょう。
誤薬が起きたときの対応|自己判断で様子を見ない
どれだけ対策しても、事故を完全にゼロにできるとは限りません。だからこそ、起きたあとの初動まで決めておく必要があります。
厚生労働省は事故発生時について、利用者さんの救命・安全確保を第一にし、現場リーダーや上司へ速やかに報告し、看護職と連携して正確な状態把握を行うことを示しています。
- 利用者さんの安全を確保し、状態を確認する
- 現場リーダー・上司・看護職へ速やかに報告する
- 誰が、何を、いつ、どの程度服用したか確認する
- 施設の手順に沿って医師・薬剤師等へ連絡し、指示に従う
- 利用者さんの状態と対応を事実ベースで記録する
- 必要な報告・説明を行い、原因分析と再発防止につなげる
「今のところ変わりないから大丈夫だろう」と介護職だけで判断しないことが重要です。
反対に、自己判断で吐かせたり、別の薬を追加したりすることも避けます。緊急性が高い状態では、施設の緊急時対応に従って必要な救急対応を行ってください。



事故後の記録については、介護現場の事故報告書の書き方で具体例を紹介しています。
誤薬の再発防止は「人を責める」より「仕組みを直す」
事故が起きると、「もっと注意して」「次は気をつけて」で終わってしまうことがあります。
しかし、それだけでは次の職員が同じ状況になったとき、同じ事故が起きる可能性があります。
見るべきなのは、たとえば次のような点です。
- なぜ確認を飛ばせる手順になっていたのか
- なぜ服薬中に別の仕事をしなければならなかったのか
- なぜ担当者が曖昧だったのか
- なぜヒヤリハットが共有されていなかったのか
- 同じ事故を止めるチェックポイントを追加できないか
厚生労働省のガイドラインでも、事故後は職員個人ではなく事業所全体で原因分析・再発防止策を検討することが示されています。
ぼく自身、ユニットリーダーとして「ミスを責めない」「相手を尊重する」ことを意識しています。ミスを怒られる職場では、職員がヒヤリハットを隠したくなるからです。
小さなミスを言える職場のほうが、大きな事故になる前に改善できます。
原因を見つけたら、介護施設の業務改善で使えるPDCA・OODAも活用しながら、手順を見直していきましょう。
新しいルールを作るだけで終わらせず、職員へ周知し、実際に守れる内容になっているか確認することも大切です。研修の進め方は介護施設の内部研修・勉強会の進め方も参考にしてください。
介護施設の誤薬防止に関するよくある質問【Q&A】
ダブルチェックをすれば誤薬は防げますか?
ダブルチェックは有効な対策の一つですが、それだけで事故を完全に防げるわけではありません。2人が同じ思い込みをしたり、「相手が見たはず」と確認を任せたりする可能性があります。誰が何を確認するかまで決めましょう。
一包化すれば誤薬を防げますか?
一包化は薬の管理を分かりやすくする方法の一つです。厚生労働省のガイドラインでも、薬局と連携して利用者さんごとの一包化を行う事例が紹介されています。ただし、本人確認や服薬確認が不要になるわけではありません。医師・薬剤師と相談して利用者さんに合った方法を検討します。
薬を飲み忘れたことに気づいたらどうすればいいですか?
自己判断で次回に2回分を服用させないでください。施設の服薬手順に従い、看護職・医師・薬剤師など所定の連絡先へ確認します。
薬を床に落とした場合はどうすればいいですか?
落薬した事実を報告し、施設の手順に従います。「同じ薬だから」と別の薬を勝手に追加したり、記録せず処理したりしないことが大切です。
誤薬した職員を服薬担当から外したほうがいいですか?
個別の判断は事業所で検討する必要がありますが、「その職員が悪い」で原因分析を終わらせないことが重要です。業務手順、担当体制、中断、情報共有など、事故につながった背景も確認しましょう。
誤薬は家族へ報告する必要がありますか?
事故発生時の説明や報告は、施設の事故対応手順や自治体の基準に従います。厚生労働省は、初動対応後できるだけ早い段階で家族へ事実関係を正確に説明することや、事故内容に応じて行政へ適切に報告することを示しています。職員個人の判断で説明せず、管理者など決められた窓口と連携しましょう。
まとめ|誤薬防止は「注意力」ではなく「仕組み」で考える
介護施設で誤薬を防ぐために大切なのは、職員へ「もっと気をつけて」と求め続けることではありません。
- 配薬準備と配薬時の両方で確認する
- 本人・氏名・日付・服用時点を照合する
- 服薬中のながら業務と中断を減らす
- 薬を渡して終わらず、服薬まで確認する
- ヒヤリハットを共有し、手順を改善する
ぼくの現場でも、顔写真、氏名表示、ダブルチェックまで行っていても事故が起きた経験があります。
だからこそ、「自分は気をつけているから大丈夫」ではなく、誰が担当しても間違いに気づける仕組みをつくることが大切です。
まずは自分の職場の服薬手順を見返してみてください。「中断される」「担当が曖昧」「飲み込みまで見ていない」という部分があれば、そこが改善のスタートです。
事故が起きてから変えるのではなく、今日のヒヤリハットを明日の事故防止につなげていきましょう。
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